2020/4/9(木)、安定冠動脈疾患に対する侵襲的治療と保存的治療を比較した研究「Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease: ISCHEMIA Research」の結果をまとめました。安定冠動脈疾患(stable coronary disease)で、中程度から重度の虚血を認める例に対し、内科的治療に加えて侵襲的治療を行う場合と内科的治療のみを受ける場合と臨床アウトカムはどちらが良いのかを調べるために、中程度から重度の虚血5179例を対象に、最初に侵襲的治療を行い(血管造影を行い、適応があれば再血行再建を行う)その後内科的治療を行う群と、最初から内科的治療による保存的治療を行い、内科的治療が失敗した場合に血管造影を行う群に無作為に割り付けました。一次転帰は心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、心不全、心停止蘇生例の複合としました。二次転帰は心血管死、心筋梗塞としました。結果、中央値3.2年間の追跡で、一次転帰は侵襲的治療群318例、保存的治療群352例に発生、6ヶ月後の事象発生率は侵襲的治療群5.3%、保存的治療群3.4%(差 1.9% 95%CI 0.8 to 3.0)、5年時点で16.4%と18.2%(差 −1.8% 95%CI −4.7 to 1.0)で、いずれも有意差を認めませんでした。二次転帰においても同様の結果でした。一次転帰の発生率は心筋梗塞の定義の影響を受け、二次解析では臨床的重要性が不明な周術期の心筋梗塞が発生していました。侵襲的治療群145例、保存的治療群144例に死亡(HR 1.05 95%CI 0.83 to 1.32)を認めました。安定冠動脈疾患で中程度から重度の虚血がある例において、中央値3.2年間の経過観察においては、最初に侵襲的治療を行う戦略は保存的治療と比べて、虚血性心血管イベント、全死亡のリスク減少するというエビデンスは認められませんでした。試験で用いた心筋梗塞の定義の影響を受けたと論文ではまとめています。詳しくは論文をご覧ください。
→https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1915922
2019年で最も強い衝撃を与えた「ISCHEMIA」試験の論文です。中程度から重度の虚血が証明された冠動脈疾患に対しては再血行再建を行うのが良いだろうとほとんどの循環器内科医が考え、良かれと思ってやっていたことだったのですが、保存的治療と行うのと3.2年間の追跡では有意差がないという結果が出てしまいまました。そんなはずはないという気持ちで、「ISCHEMIA」試験後は様々な考察が行われていますが、5179例、3.2年間で有意差が着かなかったことに変わりはありません。保存的治療を行う群においても経過観察中に虚血の進行、不安定狭心症等を疑う症状を認めた場合には再血行再建の適応となり、再血行再建術そのものの有用性が否定された訳ではありません。保存的治療とは具体的には冠危険因子、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙等に対して至適な内科的治療(Optimal Medical Therapy: OMT)を行うことであって、決して何もしないことではありません。確かに、重度の冠動脈狭窄を認め、主治医としては治療を強く推奨しつつも、仕事が忙しかったり、騙し騙し入院を避けて、通院は継続、何年もそのまま何もない例を経験することも事実です。結果的に「ISCHEMIA」試験の対照群と同じ治療状態となっている場合もあります。いずれにせよ、自己判断せず主治医とご相談ください。
2020/4/9(木)、安定冠動脈疾患に対する侵襲的治療と保存的治療を比較した研究「Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease: ISCHEMIA Research」の結果をまとめました。