2020/4/29(水)、循環器内科医のためのCOVID-19の情報、系統文献レビューと追加解析「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Information for Cardiologists – Systematic Literature Review and Additional Analysis -」の内容をまとめました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-20-0302/_pdf/-char/en
2020/3/7現在、全世界で101927例のCOVID-19の確定例が報告されています。SARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2)感染症に対して多くの関心が高まっているにも関わらず、心血管疾患(cardiovascular disease: CVD)とCOVID-19の関係は十分にはわかっていません。中国からの最近の報告を要約すると、COVID-19臨床例72314例の特徴と転帰として、確定例44415例、6168例(13.8%)は重症でした。全確定例の死亡率は全体で2.3%であったのに対し、心血管疾患がある例の死亡率は10.5%でした。別の報告では、COVID-19確定例の臨床データからは、23.7%は高血圧や糖尿病等の合併症があり、不良転帰と関係していました。このような結果から、基礎疾患がある場合には、合併症のリスクに注意すべきと言えるでしょう。このレビューでは、循環器内科医にとってCOVID-19と立ち向かう際に、現在の理解しておくべきこと、キーポイントを要約しました。データを要約する前に系統レビューを実施しました。
COVID-19の病態生理、心血管疾患との関係
SARS-CoV-2は一本プラス鎖RNAウイルスで、7種類のcoronavirusがヒトに感染力を持つことがわかっています。SARS-CoV-2の遺伝子は75-80%がSARS-COVと共通で、ACE2受容体(angiotensin-converting enzyme 2 receptor)と名付けられた同一の細胞受容体と関係します。ACE2受容体の通常の役割は心血管と免疫システムに関わっています。SARS-CoV-2とACE2受容体の結合を考えた場合に、COVID-19とACE阻害薬(angiotensin-converting enzyme inhibitors: ACEIs)、ARB(angiotensin receptor blockers: ARBs)等の高血圧治療薬との関係を示唆する研究者もいました。しかしながら、ヨーロッパ高血圧学会(European Society of Hypertension)では、最新の入手可能なデータからは、COVID-19感染においてレニンアンジオテンシン系(renin–angiotensin system: RAS)阻害薬の使用を特に変える必要はないとステイトしています。重症急性呼吸症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome: SARS)の剖検のいくつかの研究からは、代表的な病理学的所見としては、ウイルスの直接的影響及び自己免疫性因子によるびまん性の肺胞損傷でした。SARSの主要な標的臓器は肺と腸であることは多数報告されていますが、一方で、SARS-CoV感染と心血管疾患の病理については十分な報告がありません。心筋間質(myocardial stroma)、血管壁の浮腫、心筋繊維の萎縮等が心臓へのSARS-CoV感染の病理学的特徴であると報告されています。
全体および心血管疾患合併例のリスクと予後
COVID-19の重症度や予後についてはいくつかの疫学的研究が報告されています。一つの研究からは、COVID-19入院例1099例のうち15.7%は入院時に重症と分類され、非重症例と比べて重症例は高齢で、冠動脈疾患(5.8%)、脳血管疾患(2.3%)を含む基礎疾患が多く、6.1%は一次複合転帰(集中治療室への入院5.0%、侵襲的機械換気2.3%、死亡1.4%を含む)を認めました。連続入院例138例の症例蓄積研究では、26.1%が合併症のため集中治療室入院を必要とし、内訳としては急性呼吸促迫症候群61.1%、不整脈44.4%、ショック30.6%、血清中心筋バイオマーカーの異常上昇、新規の心電図異常、心エコー所見によって定義された急性心筋障害22.0%でした。心筋障害のメカニズムは完全には解明されていませんが、確からしいメカニズムとしては、ウイルスによる直接的な心筋炎、低酸素やショックによる血行動態障害、免疫反応やサイトカインストーム等が考えられています。集中治療室を必要とする例は、より高齢で、高血圧(58.3%)、糖尿病(22.2%)、心血管疾患(25.0%)、脳血管疾患(16.7%)等の基礎疾患がありました。全体の死亡率は4.3%で、過去の報告と一貫していました。アウトブレイクの発生地(epicenter)、武漢の限られたデータでは死亡率は11.7%と報告されていましたが、医療リソース不足、対象バイアス等の影響と考えられています。COVID-19の死亡率は一般的にSARSよりは低いのではないかと考えられていますが、高齢者においては高い死亡率です。心血管疾患とCOVID-19感染についての研究は多くはありませんが、死亡率は主に多臓器不全(multiorgan failure)によるものであると考えられています。
循環器内科医にとっての臨床的意味
COVID-19感染による心臓合併症は、現在、心筋障害、心筋炎、不整脈、静脈血栓症、心不全等が関係していると考えられていますが、臨床データは限られています。多くの報告で記載されているように、感染による主な症状は肺炎、急性呼吸促迫症候群に起因しています。集中治療医、呼吸器内科医、感染症専門家、プライマリケア医が最前線を担っています。循環器内科医はCOVID-19感染が疑われる例と直接的には対面しないかも知れませんが、心血管疾患はハイリスク群であることを考えると、コンサルタントとして準備をしておくべきでしょう。アメリカ心臓病学会(American College of Cardiology)は、臨床会報「ACC Clinical Bulletin COVID-19 Clinical Guidance For the CV Care Team」を発表し、頻繁にアップデートされています。会報によると、準備(preparedness)が重要で、特に個人防護具(personal protective equipment: PPE)、心電図、心エコー、カテーテル室、手術室等の設備やデバイスの管理が重要です。感染拡大の予防と医療従事者の感染防止の両面に重要です。個人防護具について最新の情報は世界保健機関(World Health Organization: WHO)、疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)のウェブサイトでオンラインで手に入ります。 デバイス管理も考慮が必要です。個人防護具の使用に加えてエコー検査設備も含めて、洗浄で消毒を早急に行うべきです。Kampfらの報告によると、SARS-COV-2は、金属、ガラス、プラスティック等の無機質の表面に最大9日間存在していますが、62-71%エタノール、0.5%過酸化水素、0.1%次亜塩素酸ナトリウム等の表面の消毒によって1分以内に効果的に不活化が可能であると報告されています。洗浄、消毒の方法については疾病管理予防センター、世界保健機関のウェブサイトにて入手可能で、特にエコープローブの消毒についてはメーカーの仕様書を参照することが求められます。同様に、消毒、予防は、集中治療室、カテーテル室、手術室等の臨床環境についても求められます。最近の報告では、COVID-19感染とわかる前に、同じ部屋を共有していた場合、新生児であっても、SARS-CoV-2感染が除外されるまで少なくとも14日間隔離を考慮とされています。COVID-19に対して循環器関連の装置や設備をどのように準備すればよいのか、限られますが、SiらはCOVID-19の急性大動脈症候群(acute aortic syndrome)の術前管理において経験を記述しています。カテーテル前においても同様です。Zengらは最近、COVID-19の疑いまたは確定例において、急性心筋梗塞の診断と治療プロトコルを提示しました。最近、アメリカ心エコー学会(American Society of Echocardiography)は、COVID-19アウトブレイク中における心エコーにおいて、感染防護のためのステートメントを発表、心エコー技師、循環器内科医に対して有用な情報となっています。COVID-19に対して様々な推奨、オンライン資料があるため、各病院において感染症、感染管理チームに相談し、ベストなポリシーを策定するのが良いでしょう。
臨床治療と管理
上述のように、管理の主体は、肺炎、急性呼吸促迫症候群等の呼吸器疾患に集中するべきで、通常は循環器内科医以外によって管理されるでしょう。Yangらは、COVID-19臨床例52例を後ろ向き解析、32例(61.5%)は28日以内に死亡と、過去の感染報告と同程度でした。循環器内科医にとって覚えておくべきことは、体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)の必要性についてです。COVID-19への体外式膜型人工肺の適応については議論が起こっており、アメリカ胸部学会(American Thoracic Society)、ヨーロッパ集中治療学会(European Society of Intensive Care Medicine)、アメリカ集中治療学会(Society of Critical Care Medicine)の臨床ガイドラインでは、急性呼吸促迫症候群に対する体外式膜型人工肺の使用は推奨も反対もしていません。COVID-19への体外式膜型人工肺の資料の科学的側面についてさらなる研究が必要とされています。また、リソースは限界があることから、リソースの適応についても考慮されるべきです。イタリア麻酔鎮痛蘇生集中治療学会(Italian College of Anesthesia, Analgesia, Resuscitation and Intensive Care: SIAARTI)は、適切な医療物資が不足しているような例外的な状況下において医師や医療従事者のガイドラインを発表しています。循環器内科医も同様にリソースの適応、国内の病院と情報の共有について関心を払うべきでしょう。
今後の展望、結論
COVID-19に関する情報は時間単位でアップデートされています。COVID-19確定例は増加しており、2020/4/20現在、全世界で2477426例と報告されています。増えゆく臨床情報を早急に共有するためには、COVID-19に関する研究記事は無料で閲覧可能にするべきであり、査読前論文(preprint articles)に関しても、bioRxiv、medRxiv、ChemRxiv等において入手可能にするべきで、臨床家、研究者たちが最新の情報に全世界で入手可能になるでしょう。現在の状況においては、査読前論文は系統レビューの対象とはなりませんが、急速に増加している大量の情報を適切に検索、要約する方法が求められます。将来的には、最新の情報はもっとスムーズに入手可能かも知れません。パンデミックへの準備、国際協力が必要です。特に、COVID-19の心血管合併症は頻度が低いので、積極的に情報を収集し、早急に情報を共有するべきです。現在、根本的な治療法はありませんが、COVID-19に対する新しい治療法の試験は現在いくつか進行中です。現在進行中の研究によってCOVID-19はさらに解明されていくでしょう。詳しくは以下をご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-20-0302/_pdf/-char/en
日本循環器学会「COVID-19対策特命チーム」によるまとめです。COVID-19の病態生理、心血管疾患との関係、循環器内科医にとっての臨床的意味、臨床治療と管理、今後の展望、結論等について、現在までにわかっていることが整理されています。新しい情報がわかり次第アップデートします。
2020/4/29(水)、循環器内科医のためのCOVID-19の情報、系統文献レビューと追加解析「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Information for Cardiologists – Systematic Literature Review and Additional Analysis -」の内容をまとめました。