2020/6/17、駆出率の中程度の心不全において過去の左室駆出率と臨床転帰の関係を調べた研究「Association of Prior Left Ventricular Ejection Fraction With Clinical Outcomes in Patients With Heart Failure With Midrange Ejection Fraction」の結果をまとめました。

2020/6/17、駆出率の中程度の心不全において過去の左室駆出率と臨床転帰の関係を調べた研究「Association of Prior Left Ventricular Ejection Fraction With Clinical Outcomes in Patients With Heart Failure With Midrange Ejection Fraction」の結果をまとめました。心不全において左室駆出率が40-5-%の範囲の中程度の範囲(midrange)にあるものを、HFmrEF(Heart Failure With Midrange Ejection Fraction)と呼び、将来事象のリスク上昇因子であることが知られています。左室駆出率の中程度の範囲への移行が、改善によるものなのか、悪化によるものなか、左室駆出率の変化の方向性と将来事象との関係は十分にわかっていませんでした。駆出率の中程度の心不全において、左室駆出率の変化と臨床経過の関係を調べることは、治療戦略の指針として価値がある可能性があります。駆出率の中程度の心不全において、以前の測定結果と比較して、左室駆出率40-50%は改善しているのか、悪化しているのか、臨床事象リスクとなるのかを調べるために、アメリカ、カルフォルニア大学サンディエゴ健康システムにて、2015年時点で経胸壁心エコーにて左室駆出率40-50%で、少なくとも1回以上の前回の経胸壁心エコーの所見と比較可能な例を対象に、電子カルテ記録をもとに後ろ向きコホート研究を実施しました。臨床経過は経胸壁心エコーの記録から2018年まで追跡しました。データ解析を2019年まで実施しました。転帰は全死亡、全原因入院の複合、心血管死亡と心不全入院の複合、それぞれの構成としました。結果、駆出率の中程度の心不全448例、男性278例(62.1%)、平均年齢67.4歳でした。左室駆出率が40%未満から改善した例157例(35.0%)、50%以上から悪化した例224例(50.0%)、40-50%の範囲内のまま変わらない例67例(15.0%)でした。左室駆出率が40%未満から中程度値へ改善した例と比べて、左室駆出率が50%以上から悪化した例は、全死亡、全入院(hazard ratio, 1.34; 95% CI, 1.10-1.82; P = 0.03)、心血管死亡、心不全入院(hazard ratio, 1.71; 95% CI, 1.08-2.50; P = 0.02)の有意に高いリスクであり、多変量解析後も差は一貫していました。左室駆出率の改善した例と、左室駆出率が変化なかった例との間には有意な差は認めませんでした。大学病院における駆出率の中程度の心不全の大規模コホートにおいて、臨床経過は前回の検査の左室駆出率からの変化の方向性によって強く影響を受けることがわかりました。左室駆出率が中程度の値へ悪化した例では、左室駆出率が改善した例と比べて、有害臨床事象の有意に高いリスクでした。以前の測定した左室駆出率からの変化の方向性は、駆出率の中程度の心不全の管理戦略において考慮されるべきと論文ではまとめています。詳しくは論文をご覧ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32584922
駆出率の中程度の心不全(Heart Failure With Midrange Ejection Fraction: HFmrEF)において、同じ40-50%の左室駆出率でも、50%以上から悪化した左室駆出率なのか、40%未満から改善した左室駆出率なのかによって予後が異なるという報告です。イメージ的には当たり前のことなのですが、統計的にも有意差を認めたとのことです。左室駆出率の変化がなかった場合と左室駆出率が改善した場合とで転帰に有意差がなかったというのも重要な情報で、左室駆出率を維持すること、左室駆出率を低下させないということが心不全の管理において大切ということが言えそうです。詳しくは主治医までご相談ください。


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