2020/8/31、スマートウォッチ搭載の心電図の多極誘導でST部分変化の診断を試みる研究「Multichannel Electrocardiograms Obtained by a Smartwatch for the Diagnosis of ST-Segment Changes」の要旨をまとめました。

2020/8/31、スマートウォッチ搭載の心電図の多極誘導でST部分変化の診断を試みる研究「Multichannel Electrocardiograms Obtained by a Smartwatch for the Diagnosis of ST-Segment Changes」の要旨をまとめました。急性冠症候群は世界中で死因の上位であり、高所得国においては疾病負荷の上位です。急性冠症候群を迅速で正確に診断することは、致死的イベントを防ぎ、速やかに治療介入、予後を改善に不可欠です。スマートウォッチの多極誘導心電図にて、急性冠症候群に関連するST部分変化を検出について、標準12誘導心電図と比較して、実用性、正確性を前向きに評価するために、市販で入手可能なスマートウォッチを用いて、多極誘導心電図100例を記録しました。2019年4月から2020年1月まで、ST上昇型心筋梗塞54例、非ST上昇型心筋梗塞27例、健康体19例を試験に組み込みました。スマートウォッチは異なる体表の位置に設置、二極誘導心電図を記録、アイントーベンの四肢誘導I、II、III、胸部誘導V1からV4に相当するように配置、従来の12誘導心電図と比較しました。スマートウォッチ、標準12誘導心電図の記録の結果の一致率を、Cohenのκ係数、Bland–Altman解析を実施しました。結果、全100例、男性67例(67%)、平均年齢61歳、スマートウォッチと標準心電図の一致率は、正常心電図の同定(Cohen κ coefficient, 0.90; 95% CI, 0.78-1.00)、ST部分上昇変化(Cohen κ coefficient, 0.88; 95% CI, 0.78-0.97)、非ST部分上昇変化(Cohen κ coefficient, 0.85; 95% CI, 0.74-0.96)でした。さらに、Bland-Altman解析の結果、スマートウォッチと標準心電図のST部分変化の振幅の検出は一致率(bias, −0.003; SD, 0.18; lower limit, −0.36; and upper limit, 0.36)でした。スマートウォッチ心電図は標準心電図の診断と比較して、正常心電図に関しては、感度84%(95% CI, 60%-97%)、特異度100%(95% CI, 95%-100%)、ST上昇に関しては、感度93%(95% CI, 82%-99)、特異度95%(95% CI, 85%-99%)、非ST上昇心電図変化に関しては、感度94%(95% CI, 81%-99%)、特異度92%(95% CI, 83%-97%)でした。本研究の結果から、急性冠症候群において、多極誘導スマートウォッチ心電図と標準心電図のST部分変化の特定において高い一致率を示唆しています。詳しくは論文をご覧ください。
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2770022

アップルウォッチの心電図機能を用いて標準12誘導のうちの9誘導を再現可能であったというイタリアからの論文です。具体的には上図のようにアップルウォッチを誘導電極として使うと、I、II、III、V1、V2、V3、V4、V5、V6と同等の誘導が検出可能とのことです。ちなみに、aVR、aVL、aVF誘導はI、II、III誘導の情報から計算で求めることが可能なので、標準12誘導と情報量は同等です。ST上昇の検出精度は、感度93%、特異度95%とのことですが、救急外来受診の場面であればそのまま即PCIへと進めたほうが良いところを、この臨床研究のために何秒間かはPCIが遅れてしまうということであり、よく倫理審査委員会を通ったなあと感じました。また、急性冠症候群は突然発症しますが、急性冠症候群の発症前には冠動脈プラークの存在がある訳で、急性冠症候群の発症を待つ必要はなく、事前に冠動脈CTを撮影すれば確実に診断可能です。アップルウォッチで急性冠症候群の検出を試みをするだけのお金があるのであれば、冠動脈CT検査を受ければ良いのになあと思いました。色々なデバイスでバイタル情報が取れるのは良いことですが、冠動脈疾患に関しては確立されたスクリーニング手法があるので、既存の確立された精査で実施すれば良い訳で、むしろ既存のアプローチで十分に検出が出来ていない不整脈の検出のほうに有効活用したほうが有望ではないかと個人的には考えています。また面白い論文があれば紹介します。


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