2020/8/11、COVID-19に対するスタチンの効果のメタ解析「Meta-analysis of Effect of Statins in Patients with COVID-19」の要旨をまとめました。

2020/8/11、COVID-19に対するスタチンの効果のメタ解析「Meta-analysis of Effect of Statins in Patients with COVID-19」の要旨をまとめました。COVID-19(novel coronavirus disease 2019)の流行の発生以降、既存の治療薬をCOVID-19治療に転用出来ないか多くの議論がありますが、スタチンのその一つです。しかし、COVID-19の臨床経過に対するスタチンの影響は相反する二面的な見方がありました。骨髄分化一次応答タンパク88(myeloid differentiation primary response protein 88: MYD 88)経路の発現障害は、過剰な炎症の結果として起こり、他のcoronavirus感染では予後不良と関連していることがわかっていますが、COVID-19においては最終的な証明には至っていません。スタチンは骨髄分化一次応答タンパク88の阻害薬として知られており、過剰なストレスの存在下における骨髄分化一次応答タンパク88値を安定化、COVID-19の過剰な炎症反応に対して保護的な役割の可能性が示唆されています。臨床において、スタチンは実験室的にはACE2発現のアップレギュレーション、coronavirusによって引き起こされる肺損傷に対して保護的に働く可能性があります。一方で、スタチンは細胞内の内因性コレステロール容量の欠乏の原因となり、LDL受容体のアップレギュレーションの誘引、外因性コレステロールの細胞膜への取り込み、複数の脂質ラフトの構成、coronavirusesの感受性亢進に関わる可能性も指摘されています。研究者によってはスタチンは、前炎症性インターロイキン18値の増加、その後のサイトカインストーム、急性呼吸促迫症候群の炎症経路の活性化からCOVID-19の経過の重症化の進行を促進してしまう可能性について議論を投げかけています。個別の観察研究からこの問題について報告が出ており、COVID-19の臨床転帰に与えるスタチンの影響について現在のエビデンスを要約するためにメタ解析を実施しました。PubMed、Google Scholar、査読中のmedRxiv データベースから、2020/7/27までの、COVID-19の重症化、死亡率とスタチンの使用の有無に関する研究を、論文の見出しから「COVID-19」「statin」「HMG-CoA reductase」等で、言語の指定なく収集しました。文献の参照、引用文献、追加の論文等も含めました。研究はCOVID-19確定例で、重症度、死亡率、スタチン使用者、スタチン非使用者の比較データが入手可能なコホート、症例対照研究を含めました。筆者2名によって研究の特性、影響の測定について独立して評価しました。データ外部性の不一致の場合は議論を通じてコンセンサスを取りました。観察研究の質は、Newcastle-Ottawa Scaleを用いて評価しました。調整後ハザード比、95%信頼区間をMeta XL version 5.3を用いて無作為化影響モデルによって蓄積しました。Cochranの異質性Q検定、I2統計量の異質性の推算を実施しました。文献検索274件、重複除去、組み込み基準の適応の結果、全8990例をメタ解析に組み込みました。Yan et alを除外しました。中程度の質5/9件、良好な質7/9件でした。蓄積解析の結果、COVID-19において、スタチンの使用は、スタチンの使用していない群と比べて死亡率、重症化のハザード比を有意に低下(pooled HR=0.70; 95% CI 0.53-0.94)を認めました。メタ解析は大規模なCOVID-19症例数を含んでおり、4件の研究のうち3件は大規模研究で、広範囲の複数の交絡因子の潜在的可能性を調整しており、本結果は信頼度は高いと考えられます。現時点の予備的な結果からは、COVID-19においてスタチンの使用は、死亡率、重症化率を30%低下、害を及ぼすことがないと示唆されました。COVID-19治療においてスタチンのレジメンは、入手可能なエビデンスからは中等量から高用量が効果的ではないかと示唆されましたが、決定のためにはさらなるデータが必要です。従って、さらなる前向き研究によるデータを待つ必要があります。今後、COVID-19におけるスタチンのベネフィットを確定するためにはよくデザインされた無作為化対照研究が必要です。詳しくは論文をご覧ください。
https://www.ajconline.org/article/S0002-9149(20)30823-7/fulltext
スタチンが有益な影響があるかも知れないというメタ解析です。4件の研究のメタ解析からなり、内訳は中国2件、アメリカ1件、イタリア1件とのこです。スタチンの多面的作用は昔から報告されていますが、骨髄分化一次応答タンパク88(myeloid differentiation primary response protein 88: MYD 88)の過剰発現抑制作用が感染症の重症化抑制に関係しているかも知れないという話は初耳でした。日経メディカルでも記事になっていました。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202009/567269.html


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