2020/11/26、スタチン、プラセボ、無投与の副作用を評価した研究「N-of-1 Trial of a Statin, Placebo, or No Treatment to Assess Side Effects」の要旨をまとめました。

2020/11/26、スタチン、プラセボ、無投与の副作用を評価した研究「N-of-1 Trial of a Statin, Placebo, or No Treatment to Assess Side Effects」の要旨をまとめました。スタチンはしばしば副作用のために中止されますが、いくつかの盲検試験においてプラセボと比べてスタチン投与で症状が増加していないという報告もあります。過去のスタチン投与開始から2週間以内に副作用のため中止となった例を対象に、症状はスタチンによるものかプラセボによるものか調べるために、二重盲検3群間比較対照試験を実施しました。参加者は、アトルバスタチン20mgの入ったボトル4本、プラセボが入ったボトル4本、空のボトル4本を受け取り、各ボトルは無作為化、1ヶ月ごとに切り替えました。参加者はスマートフォンアプリケーションにて日々の自覚症状を詳しく報告しました。自覚症状スコアは自覚症状なし0点から想像出来る最大の症状100点までとしました。自覚症状が受け入れられないほど酷いと判断した場合には、その月は内服を中止して良いとしました。主要評価項目は自覚症状の程度、ノセボ比(nocebo ratio)、プラセボ投与による自覚症状の程度とスタチン投与による自覚症状の程度の比としました。ノセボ比は、プラセボ投与時の自覚症状の程度からスタチンもプラセボも投与していない時の自覚症状の程度を引いたものを、スタチン投与時の自覚症状の程度からスタチンもプラセボも投与していない時の自覚症状の程度を引いたもので割った値として計算しました。2016年から2019年、全60例参加、全49例が12ヶ月の全試験を完了しました。主要評価項目解析の結果、ノセボ比2.2(95% confidence interval [CI], −62.3 to 66.7)でした。スタチン投与時の自覚症状の程度からスタチンもプラセボも投与していない時の自覚症状の程度を引いた値が予想以上に小さいまたは陰性であったため、この値は高く、信頼区間が広く出ました。独立した層別化、個別データの推奨された差分解析を蓄積、その後比を計算した結果、ノセボ比0.90でした。全60例、自覚症状の程度の中央値は、非投与時8.0(95% CI, 4.7 to 11.3)、プラセボ投与時15.4(95% CI, 12.1 to 18.7)、非投与時と比べて有意差あり(P<0.001)、スタチン投与時16.3 (95% CI, 13.0 to 19.6)、非投与時と比べて有意差あり(P<0.001)、プラセボ投与時と比べて有意差なし(P=0.39)でした。試験完了から6ヶ月後、30例(50%)はスタチンを再開に成功、4例は再開の予定、1例は連絡が着きませんでした。残りの25例はスタチン投与を受けていないか、再開の予定はありませんでした。副作用のためスタチン投与を中止していた例において、スタチン投与によって引き起こされた自覚症状の90%はプラセボにおいても引き起こされました。試験参加の半数はスタチン再開に成功しました。詳しくは論文をご覧ください。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2031173
スタチンは心血管疾患の一次予防、二次予防、いずれにおいても非常に有益ですが、副作用への懸念から中止率が高いことも課題です。今回、プラセボ効果の逆、ノセボ効果を定量的に調べたところ、プラセボ投与においても何らかの症状を自覚していることがわかり、その比、ノセボ比は90%であり、実薬群と有意差がなかったことがわかりました。自覚症状は実薬においてもプラセボにおいても感じていることを説明したところ、一度スタチンを中止した60例のうち30例はスタチンを再開出来たというところまでフォローしているところが興味深い研究です。実臨床ではスタチンの副作用は確実に存在するので、投与開始時、用量変更時には必ず採血検査にて確認することが重要で、お茶の水循環器内科ではそのようにしています。詳しく主治医とご相談ください。


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