フランスの医療保険制度についてまとめました。

フランスの医療保険制度についてまとめました。ひょんなことから最近海外医療制度勉強会に参加しています。日常の診療とは直接関係はありませんが、日本の医療制度の今後を考えるヒントになるのではないかと考え、参加しています。ちなみに、第二外国語はフランス語選択でしたが、「I love you」が「Je t’aime」であることと、「Yes」が「Oui」であること以外すっかりと忘れました。
フランスは人口約6200万人と日本の半分くらい、国民総生産は約2兆8000億ドルの世界第6位の経済国、国旗は青白赤の三色旗でそれぞれ「自由・平等・友愛」を表しているそうです。フランスは1970年代から少子高齢化が始まりましたが、1980年代から様々な対策を講じた結果、1990年代から少子化に歯止めが掛かり、2016年時点、合計特殊出生率2.00となかなかの回復を果たしました。平均寿命82歳、高齢化率は19.5%と日本の高齢化率26.9%よりも低い水準にあります。
現在のフランスの医療制度の基礎は、1945年の社会保障制度の設立ラロックプランに始まり、1996年の社会保障改革ジュペ・プラン、2004年ブラジ改革等で形作られ、2005年、医療保険全国支出目標(Objectif national des dépenses d’assurance maladie: ONDAM)で、年度ごとの国全体の医療費を予め決め、超過した分は訴求して減算するという強引な仕組みで、確実に医療費増大を抑制に成功しています。
2004年以降、かかりつけ医制度が始まり、16歳以上は必ず主治医を持つことが義務付けられ、かかりつけ医以外の受診は禁止はされてはいませんが、医療費自己負担割合が増加するという仕組みです。医療情報は保険証機能付きのICカード(Carte Vitale)に蓄積、医療情報は共有されます。過剰受診抑制意識の向上のため全ての外来受診において受診時負担金1ユーロが義務付けられています。
フランスではかかりつけ薬剤師の役割が明確化しており、かかりつけ医と選ぶ際の助言、医療機関を受診するかどうかの目安の判断、セルフメディケーション、日常的な健康アドバイザーとして機能しています。医薬品は、処方箋任意医薬品(Prescription Medicale Facultative: PMF)と処方箋必須医薬品(Presctiption Medicale Obligatoire: PMO)の2種類からなり、PMFは薬剤師は薬剤師の判断で販売可能です。PMOは完全医薬分業制で、薬局にて処方箋調剤1回につき0.5ユーロの負担金が発生します。

PMOについて興味深いのは、医薬品ごとに保険給付率が異なることが特徴です。具体的には、高等保健機関(haute autorité de santé: HAS)の専門委員会の一つ、透明性委員会(CT)は医薬品に対し、医療技術評価(health technology assessment: HTA)を行います。第一に、医療上の利益(service médical rendu: SMR)について、(1)有効性と安全性、(2)治療指針における位置づけ、(3)疾患の重篤度、(4)治療の特性(予防的、治療的、対症的)、(5)公衆衛生への影響の5つの基準から評価を行い、重要(Important)、中程度(Modéré)、軽度(Faible)、不十分(Insuffisant)の4段階で評価します。第二に、追加的な医療上の利益(amelioration du service médical rendu: ASMR)について、(1)価格基準、(2)医療上の改善度、(3)同効薬の価格、(4)販売量の4つの観点から評価を行い、顕著な改善(I)、重要な改善(II)、中等度の改善(III)、軽度の改善(IV)、改善なし(V)の5段階で評価します。SMR評価とASMR評価の結果、医療製品経済委員会(comité économique des produits de santé: CEPS)が医薬品価格を決定し、全国医療保険金庫連合(Union nationale des caisses d’assurance maladie: UNCAM)が保険償還率を決定します。結果、具体的には、保険償還率は上図のように、抗腫瘍薬、HIV治療薬等の100%のものから、降圧薬、脂質異常症治療薬、抗不整脈薬等の65%、抗ヒスタミン薬等の30%、胃薬、睡眠薬等の15%と段階的に設定されており、去痰薬、湿布等は0%(保険償還の対象外)とされています。日本では保険適応(保険償還率70%)と保険適応外(保険償還率0%)の2パターンしかありませんが、フランスは医療上の利益によって、保険償還率100%から、65%、30%、15%、保険償還率0%(保険適応外)と5パターン段階を設計することで、柔軟かつメリハリの効いたルール設計となっています。医薬品は日本と同様、後発医薬品の使用が推進されており、2012年以降、後発医薬品の使用を承認しない場合には全額自己負担支払い、後日償還払いというルールとなりました。リフィル処方箋と言って、安定した慢性期疾患に対しては、同一処方内容で複数回利用可能なタイプの処方箋もあります。
医薬品以外の医療費については、検査60%-100%、看護処置やリハビリテーション等60%、眼科60%、整形外科60%、補聴器60%、歯科70%、などと給付される医療内容に応じて細かく決まっています。救急車利用料65%と有料ですが、世界的に観ると救急車が無料の国のほうが珍しいです。日本では保険償還率は個人ごとに被保険証によって決まっていますが、フランスでは医療行為ごとに保険償還率が決められていることが興味深い点です。
以上の給付は、基礎的医療保険の話で、自己負担分の支払いを補うには別途に補足的な医療保険(Mutuelle)に加入する必要があり、両方加入する人が多いようです。
検査についてフランスは特徴的で、検査に関しても分業制が進んでおり、かかりつけ医の診療所には基本的にレントゲン、採血、エコー検査等の検査設備がなく、診療所とは別に検査専門施設があり、検査が必要であるとかかりつけ医が判断した場合には、医師は「検査箋」のようなものを発行、それを持って検査施設へ行き、検査を受けて、検査結果を持って再度かかりつけ医を受診するというスタイルのようです。これは一長一短で、その場で検査を受けられないことやかかりつけ医の受診の予約が1、2週間待ちなどなかなか予約が取れないことが不満となっているようですが、逆に言えばほとんどの急性疾患は2週間もあれば自然治癒することものが大半で、かかりつけ薬剤師のセルフメディケーション体制と合わせて、不必要な高度医療機関受診を結果的に抑制していると解釈することも出来ます。このへんはフランスで生活していたことのある方の意見を聞きたいところです。ちなみに、お茶の水循環器内科では高度な検査が必要な場合は積極的に専門の検査機関と連携し、検査を手配する体制を採用しており、特に意識した訳ではありませんが、フランス的なスタイルかも知れません。
最後にまとめとして、医療保険全国支出目標、医薬品別の保険償還率の設定、個人ごとではなく提供医療内容別の保険償還率の設定、基礎的医療保険と補足的医療保険の併用、検査の分業化、などが特徴的であり、日本も学ぶべきところが多く、特に、医薬品別の保険償還率の設定はメリハリの効いた医療制度改革の有効な打ち手として大いに参考にすべきであると感じました。他の国の医療制度についてもまたまとめるかも知れません。

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