日本循環器学会・日本糖尿病学会合同委員会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」の内容をまとめました。

日本循環器学会・日本糖尿病学会合同委員会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」の内容をまとめました。
http://www.j-circ.or.jp/topics/jcs_jds_statement.htm
http://www.j-circ.or.jp/topics/files/jcs_jds_statement.pdf
糖尿病は冠危険因子として狭心症や心筋梗塞と言った冠動脈疾患の原因になるとだけでなく、心不全の原因にもなり、収縮力の低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)だけでなく、収縮力の保たれた心不全( heart failure with reduced ejection fraction: HFpEF)の原因にもなることがわかって来ました。また、糖尿病合併症として、糖尿病性腎臓病、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害と言った微小血管障害の抑制の重要性とともに、心血管疾患や脳血管疾患等の大血管障害の抑制のためには、糖尿病だけではなく、高血圧、脂質異常症とともに動脈硬化の抑制が重要であり、日本においてもJ-DOIT3試験等によって多因子への厳格な介入が心血管疾患、脳血管疾患を抑制することが明確となりました。そこで循環器内科と糖尿病内科のさらなる密接な連携を目指して、診断、予防、治療、さらには糖尿病専門医から循環器専門医への紹介基準、循環器専門医から糖尿病専門医へいの紹介基準も含めた、日本循環器学会・日本糖尿病学会合同のステートメントが作られました。
【診断】
・糖尿病の診断基準に変更はありません。空腹時血糖126、随時血糖200、HbA1c6.5等を目安に診断基準に従って診断します。糖尿病があると糖尿病がない場合に比べて、心筋梗塞や脳卒中のリスクが1.5-3.6倍に増加するとされています。HbA1cを1.0低下させることによって心筋梗塞のリスクを14%低下させることが出来ると報告されています。
・動脈硬化性疾患、特に冠動脈疾患の診断として、スクリーニング検査として心電図、頸動脈エコー、非造影CT、PWV、CAVI、ABI、運動負荷心電図、薬物負荷心電図などがありますが、確定診断のための検査としては冠動脈造影CTが有用です。他に、運動負荷心筋シンチグラフィ、運動負荷心エコーなどの検査もあります。糖尿病でよく使うメトホルミンというお薬は冠動脈造影CT検査と相性が悪いので必ず主治医までご相談ください。
・糖尿病と心不全は密接な関係にあり、糖尿病があると心不全のリスクは2-5倍に増加することが知られており、重度の高血糖で心機能が低下した病態として、糖尿病性心筋症(diabetic cardiomyopathy)という概念もあります。スクリーニング検査としてBNPまたはNT-proBNPが有用で、確定診断のための検査としては心エコーが有用です。
・不整脈、特に心房細動は糖尿病の直接的な合併症ではありませんが、糖尿病があると心房細動のリスクは1.4-1.6倍になると言われており、また心房細動がある場合に糖尿病があると血栓症リスクは高まるなど、相互に関係しています。心房細動の診断のためには問診、心電図、ホルター心電図が有用です。イベントレコーダー、市販の携帯型心電計、心拍計などもあります。
【予防・治療】
・一次予防としての運動療法では、有酸素運動、レジスタンス運動、両方の組み合わせが有効です。具体的には、有酸素運動は中程度の運動強度で、週に150分かそれ以上、週に3回以上、運動をしない日が2日間以上続かないように、レジスタンス運動は連続しない日程で週に2-3回、禁忌がなければ両方の運動を行うのが良いとされています。二次予防としての運動療法には心臓リハビリテーションがあります。
・糖尿病においても喫煙は有害であることは明確で、冠動脈疾患のリスクを1.5-2倍に増加させ、禁煙によってリスクは低下します。電子タバコ、加熱式タバコも安全性を保証する明確なエビデンスはないため推奨されていません。
・栄養・食事療法も有効です。肥満の場合は体重の3%の減量を目標に、一方でサルコペニアにも注意すること、炭水化物、タンパク質、脂質の比率に結論が定まっていない、高血圧合併例や糖尿病性腎臓病予防のためには塩分は6.0g未満が目標です。
・薬物療法としては、高血圧に対しては130/80を目安に治療を開始、降圧目標値は130未満とします。降圧薬としては、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、少量利尿薬を使います。微量アルブミン尿、蛋白尿陽性の場合はACE阻害薬、ARBを優先します。
・脂質異常症に対しては一般的にスタチンが使われます。LDLの治療目標値は一次予防で120未満、二次予防で100未満または70未満とします。
・一次予防における抗血小板薬に関しては一律の投与の有効性のエビデンスはありませんが、心血管疾患のハイリスク例に対してはバイアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールを使うこともあります。
・糖尿病の薬物療法としては、ビグアナイド、チアゾリジン、αグルコシダーゼ阻害薬、DPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬があり、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬で心血管疾患の抑制のエビデンスがあります。日本では一律の治療アルゴリズムはなく、個々の病態に合わせて使うとされています。
・糖尿病患者における冠血行再建術として、冠動脈カテーテル治療が必要な冠動脈疾患の40%が糖尿病を合併しており、糖尿病合併した心筋梗塞の死亡率は7年間の追跡で45%であったという報告があります。糖尿病合併の冠動脈疾患に対してPCIが良いかCABGが良いかの長年の議論がありますが、BMS時代から第2世代DES時代に変わり、一律の使い分けではなく、ハートチームによる総合的判断が重要です。慢性腎臓病合併例では造影剤腎症の予防にも注意が必要です。
・耐糖能異常者における心不全の予防・治療について確立されたエビデンスはあまりありませんが、一般的に食事療法と運動療法は推奨されます。
・心不全の薬物療法としては、糖尿病を合併した心不全のみを対象としたエビデンスはないですが、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬の中では、耐糖能異常への配慮に注意、カルベジロール、メトプロロールは糖代謝への影響が少ないと記載されています。
・糖尿病治療薬で注意すべきは、チアゾリジンは症候性心不全に対しては禁忌、ビグアナイドは以前は禁忌とされていましたが心不全合併糖尿病において心不全入院や全死亡を有意に減少させたことから欧米では禁忌が解除されました。SGLT2阻害薬のうち、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジンは心不全に対して抑制的に作用する可能性が示唆されて来ており、心不全のハイリスク例または心不全を合併している糖尿病に対してはSGL2阻害薬の投与を推奨すると記載されました。
・耐糖能異常者における心房細動の治療として、心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法、心拍数調整、洞調律維持、積極的にカテーテルアブレーション治療の適応を考慮と記載されました。非弁膜症性心房細動では血栓症リスクの評価にCHADS2スコア、出血リスクの評価にはHAS-BLEDスコアが有用です。抗凝固療法にはワルファリンおよび直接経口抗凝固薬があり、心房細動薬物治療ガイドラインに沿って選択します。抜歯や手術時には適宜休薬を判断します。抗不整脈薬のシベンゾリンは低血糖に注意します。
【紹介基準】
糖尿病専門医から循環器専門医へ、循環器専門医から糖尿病専門医へ、相互の紹介基準が共同で作られたことが今回の日本循環器学会・日本糖尿病学会合同委員会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」の目玉ではないでしょうか。

・糖尿病専門医から循環器専門医への紹介基準としては上記のように、無症候時の紹介基準としては冠危険因子に応じて、有症候時の紹介基準としては難治性高血圧、冠動脈疾患を疑う場合、心房細動等の不整脈を認めた場合、心不全兆候またはBNP/NT-proBNPの上昇を認めた場合、他の動脈硬化性疾患を疑う場合と整理されました。詳しくは上記をご覧ください。
・循環器専門医から糖尿病専門医への紹介基準としては下記のように、糖尿病を新たに発症した場合の紹介基準としては、血糖コントロールが著しく不良(目安として空腹時血糖250、随時血糖350)な場合、1型糖尿病が疑われる場合(目安として尿ケトン体陽性、抗GAD抗体陽性、空腹時血中Cペプチド0.5以下等)、糖尿病の患者教育が必要になった場合、その他検査や治療方針が不明な場合、糖尿病治療の大幅な変更などが望まれる場合の紹介基準としては、血糖コントロール不良が一定期間持続する場合(目安としてHbA1c 8.0以上、高齢者はHbA1c 8.5以上が3ヶ月以上持続)、糖尿病治療の見直しを要する場合、糖尿病急性増悪の場合もしくは急性合併症(ステロイド使用、膵疾患、感染症に伴う血糖値の急激な悪化、糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、乳酸アシドーシスなど)、周術期または手術に備えて血糖コントロールを必要とする場合、糖尿病の患者教育が改めて必要になった場合、SGLT2阻害薬使用者で正常血糖アシドーシスの可能性がある場合、糖尿病専門医による糖尿病の継続管理が望ましいと考えられる場合として、1型糖尿病、低血糖を頻繁に繰り返す例、ブリットル糖尿病(血糖変動が顕著)、膵切除後、空腹時Cペプチド0.5以下の例などが明記されました。詳しくは下記をご覧ください。

全体的に大きな変更点はありませんが、日本循環器学会と日本糖尿病学会と共同で紹介基準を作るなど、このように診療科間の連携が進んでいくことが大きな一歩ではないかと感じました。詳しくは、日本循環器学会・日本糖尿病学会合同委員会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」をご覧ください。
http://www.j-circ.or.jp/topics/jcs_jds_statement.htm
http://www.j-circ.or.jp/topics/files/jcs_jds_statement.pdf

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