2020/5/25、雑感「新型コロナウイルス危機第一波を振り返って」をまとめました。

雑感「新型コロナウイルス危機第一波を振り返って」をまとめました。2019年末から2020年春に掛けて、新型コロナウイルス危機が全世界を襲いました。2020/5/25現在、日本においては第一波がある程度終息、緊急事態宣言が解除となりました。良い機会なので、少し雑感をまとめてみました。
・新型コロナウイルス危機
世の中は新型コロナウイルス危機と言ってもいいほど大混乱に陥っています。少しでも咳をすれば周囲が殺気立ち、熱があれば新型コロナかどうか、不安で不安でたまらない社会となりました。まるで、新型コロナかそうでないか、病気は2つしかないかのような勢いです。

人類の歴史を振り返れば、長い間、人類にとって医学とは感染症との戦いでした。結核、肺炎、胃腸炎、つい戦前まで日本人の死因の上位は感染症でした。医学の歴史とは、いかに感染症の発生を制圧するか、感染症の治療効果を上げるかがメインでした。幸い、衛生状態の向上、栄養状態の向上、抗菌薬の開発、点滴、入院管理の整備等で感染症は次第に制圧され、日本人の死因として非感染性疾患が台頭して来ました。実は非感染性疾患が死因の上位を占めるようになったのはついここ数十年のことなのです。ちなみに、日本の医療制度の多くは、感染性疾患がメインの時代に作られたもので、その後、非感染性疾患がメインの時代になって、疾病構造の変化が起こっても抜本的な改革が出来ていないため、様々な問題が起こっているという話がありますが、長くなるので割愛します。以前まとめたものがありますのでご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/8691
・感染性疾患と非感染性疾患
疾病構造の変化から医療に求められる役割が変わりました。新型コロナウイルスはこのタイミングで起こりました。疾病構造の変化としては、感染性疾患から非感染性疾患へ、というメガトレンドの中で、まさかの感染性疾患が再度注目を浴びる形になったのです。感染性疾患と医療の関係はインパクトがあります。今まで元気だった人が急に体調が悪化し、数日で重症化し、助からなくなってしまう。新型コロナウイルスに2020/5/25現在、特効薬はありませんが、特効薬がなければ助からなかった例が特効薬が開発されればみるみる助かるようになる、医療の恩恵というのを実際に体感しやすいのが感染性疾患です。また、ウイルスは目に見えないですし、未知のウイルスという恐怖を加速します。まるで、新型コロナかそうでないか、心配でたまらなくなる気持ちも十分に理解出来ます。さて、冷静に考えた場合、病気は新型コロナウイルスだけでしょうか。そんなことはありません。今まで通り、非感染性疾患は変わらず人類を苦しめているのです。

新型コロナウイルス危機の第一波の最中では書きにくかったのですが、第一波の終息が見えた今のタイミングで言えることですが、2020/5/25現在、幸い、日本では新型コロナウイルスによる死者数を1000例未満に押さえることが出来ました。実は日本人の死因のうち、肺炎は第5位(年度によっては第3位や第4位)で、毎年12万人近くの日本人が肺炎で亡くなっています。肺炎の原因となる病原体は様々で、細菌もウイルスも含みます。様々な細菌やウイルスが肺炎の原因となりますが、新型コロナウイルスは1000例にも満たなかったというのが現実の数字なのです。また、肺炎以外では、結局のところ、三大疾患と呼ばれている、がん、心疾患、脳卒中、この3つで死因となる日本人のほうが圧倒的に多いのです。新型コロナウイルスの診療に取り組む医療機関の必要性と同時に、それと同じかそれ以上に今まで通りの医療を行う医療機関も必要なのです。
・これからの医療機関の役割分担
誤解を恐れずに言えば、医療機関の役割は節目に来ていると感じています。まず第一に、感染性疾患と非感染性疾患の役割分担です。今回、日本国内で多くの院内感染が発生しました。また、救急外来が休止になったり、一般外来が制限されたり、分娩が中止になったり、中には手術が中止や延期になったりするなど、非感染性疾患の治療に大きな支障が発生しています。なぜこのようなことが起きてしまうのか。原因は感染性疾患と非感染性疾患を一緒に診ていることが原因です。心筋梗塞の治療だけに特化している病院、整形外科の手術だけに特化している病院等では大きな支障が出ていません。感染性疾患と非感染性疾患を一緒の施設で診ている限り、どんなに注意をしても院内感染は発生してしまいます。院内感染を物理的に防ぐには、施設を分けるしかないのです。簡単なことと思われるかも知れませんが、医師の教育の中では、特定の病気だけ診るのではなく、あらゆる病気を何でも診るのが良い医師という根強い考え方があるので、容易ではありません。急に病院の設備を変えるのは難しいという事情もあるでしょう。しかし、大阪の病院等で実際に新型コロナウイルスの専門病院を整備したりは出来ているので絶対に出来ない理由にはなっていません。やはり、何でも診るのが良い医師であるという医師の信条が一番の根本的な原因ではないかと考えています。

第二に起こる変化が、「不要不急ラインの上昇」です。今回の新型コロナウイルス第一波でわかったことのもう一つが、予想以上に多くのケースが、セルフメディケーション、自宅療養でなんとかなるということです。今まで、ちょっと心配だからすぐに病院に行こう、であったのが、ちょっと心配くらいで病院に行くのは新型コロナウイルスが怖いから辞めよう、に一気に変わりました。本当に病院に行く必要があるかを真剣に考えるようになりました。実際に、首都圏において外来受診は20%前後減少し、外来の新規受診は50%近く減少したという報告があります。2020年春の緊急事態宣言期間中は、「不要不急の外出」を控えるという言葉がさかんに強調されましたが、医療というと「不要不急の医療」なんてものはないとイメージを持たれるかも知れませんが、「不要不急の医療」は実際にあったのです。医療には、「不要不急の医療」と「不要不急ではない医療」と2つの医療があったのです。上の図は私個人の考えを図解したもので、異論はあるかと思いますが、これからの医療機関の役割を考えた場合に、本当に医療機関として必要な医療を行っていかなくてはいけないのです。「不要不急の医療」を行っていたのでは医療機関としての存在意義がないのです。あるいは、不要不急度の高い医療に依存していたのでは、処方箋で薬をもらったほうが安い、希望の検査をして欲しい、希望の薬を出して欲しい程度のニーズしか応えることが出来ていないと、今回の新型コロナウイルス危機のように「不要不急ラインの上昇」によって需要そのものが蒸発してしまうという危機になってしまうということが、今回多くの医療機関経営者は身に染みてわかったのではないでしょうか。ちなみに、「不要不急ライン」の変化というテーマについては、薬局お茶の水ファーマシーの片山薬剤師が零売の利用の変化という別の視点からも興味深い考察をしていますので、ご興味があればご覧ください。
https://xn--t8jvd551n2lnn90a6cd.jp/archives/3485
・お茶の水循環器内科の存在意義
お茶の水循環器内科の役割は「世の中から救えるはずの病気をなくすこと」です。ちょうど、2018年4月、医療法人社団お茶会を設立した際に、お茶の水循環器内科の理念を改めて確立しました。当時は「隠れインフルエンザ」の悪夢に懲りて、半分やけくそになっていたところがありました。それまでかかりつけであった患者さんから直接暴言または陰口を言われることもありました。医師の界隈においても直接ではありませんでしたが、風邪を診ないとは医師として如何なものかと批判や議論があったようですし、私は専門医は一枚も取らない主義なのですが、そこで足を引っ張ろうとする医師もいました。心疾患にそこまで思い入れがないスタッフは去っていきました。一度決めたことは粘り強く続ける以外にないので、シンプルに「その医療は心筋梗塞を減らすだろうか?」に絞り、ひたすら心疾患の診療に当たって来ました。当時の苦悩について、以前まとめたものがありますのでご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/2018-0128
もがき苦しみの時期を経て、2年半掛かかりましたが、今ではかかりつけ患者さんのほとんどが心筋梗塞一次予防、心筋梗塞二次予防の患者さんになりました。日々の連携を通じて、都内の心臓画像の専門クリニック、心臓血管の専門病院から信頼を得られるようになりました。いちいち人数を数えていませんが、多くの心筋梗塞を救いました。詳しい意見が聞きたいからと遠方からわざわざ探して受診をして来る方も増えました。新型コロナウイルスの最前線で戦っている医師もいる中で少々言いにくいのですが、感染症の心配がないから他の医療機関と比べて安心して通院出来ると感謝を言われることもありました。2年半前、新型コロナウイルス危機を誰が予言出来たでしょうか。非科学的なものは基本的に信じない性格なのですが、あの時、今しかない、今やらなかったらもうチャンスはないかも知れない、という「兆し」のようなものを感じました。人生にはたまに論理では説明出来ないことがあります。あの時感じた「兆し」は今振り返れば結果として間違っていませんでした。あまりスピリチュアルなことを言うのも心配ですが、変化の時代こそ、一過性の表面的な変化と、普遍的な本質的な変化とを見極める目が重要です。新型コロナウイルス危機で、日本全国ほとんど全ての医療機関が大きな影響を受けました。突然、診療形態を変えてみたり、オンライン診療しかり、往診しかり、ウェブマーケティングしかり、頭を使って創意工夫をこらす医療機関もあれば、お茶の水循環器内科は逆に何を変えないか、という戦略を徹底しました。人間のコントロール出来る範囲を大きく超える自然の摂理には逆らわないこと、逆らっても勝ち目がないことを事前によく理解しているからです。危機の時こそ、じたばたしないことが大切です。いつの時代も変わらない医療機関の役割とは何なのか、本当に必要とされる真の医療とは何なのか、ゆっくりと考えることに時間を使いました。創業時の理念も、お茶の水循環器内科に変えた時の自分の文章を読んでみても、年単位で振り返ると、理念は自分でも驚くほど一貫しています。今回の新型コロナウイルス危機を乗り越え、今後どんなことがあったとしてもお茶の水循環器内科の役割は変わりません。「世の中から救えるはずの病気をなくすこと」「心血管疾患の一次予防」が必要とされる限り、日々診療を続けて行きます。不要不急の医療と、いつの時代も必要とされる変わらない医療と、改めて考える良いきっかけとなりました。以上、長くなりましたが、新型コロナウイルス危機第一波を振り返って雑感でした。


PAGETOP