2020/6/9、冠動脈疾患における遺伝子リスクスコアの有用性について調べた研究「Limitations of Contemporary Guidelines for Managing Patients at High Genetic Risk of Coronary Artery Disease」の要旨をまとめました。冠動脈疾患の遺伝子リスクスコア(Polygenic risk scores: PRS)は、ハイリスク群を特定し、スタチン治療による一次予防のベネフィットが大きい群を特定します。冠動脈疾患の遺伝的リスクは、臨床的な心血管リスクを評価において従来のパラダイムを変えるかどうかは十分にわかっていません。冠動脈疾患の一次予防において、遺伝子リスクとガイドラインベースの推奨と管理を比較しました。アメリカにて、3つのヘルスケアシステムから47108例の冠動脈疾患の遺伝子リスクスコアを調査しました。遺伝子リスクスコアのハイリスク群の一次予防は、ガイドラインベースのスタチンの推奨、スタチン治療の率を変えるかどうかを評価しました。結果、47108例、平均年齢60歳、冠動脈疾患11029例(23.4%)、冠動脈疾患の遺伝子リスクスコアは冠動脈疾患の有無と強く関連(odds ratio: 1.4 per SD increase in PRS; p < 0.0001)を認めました。遺伝子リスクスコアが高い上位20%の群は冠動脈疾患の進行と有意に関連(1.9-fold odds of developing CAD p < 0.0001)を認めました。しかしながら、一次予防群33251例において、遺伝子リスクスコアの値は、アメリカ心臓病学会、アメリカ心臓病協会のガイドラインのスタチン治療の推奨(46.2% for those with high PRS vs. 46.8% for all others, p = 0.54)、アメリカ予防医療タスクフォース(U.S. Preventive Services Task Force)の推奨(43.7% vs. 43.7%, p = 0.99)、スタチン処方率の高さ(25.0% vs. 23.8%, p = 0.04)、いずれも有意差を認めませんでした。ガイドラインベースの推奨と比べて、冠動脈疾患の遺伝子リスクスコアが高い場合に推奨される一次予防のためのスタチン治療は、4.1%増加しました。既存の心血管疾患の一次予防のためのガイドラインは、冠動脈疾患に対する遺伝子リスクスコアを補足するには不十分でした。冠動脈疾患予防のためには遺伝的リスクと臨床的リスクと両方を用いていく必要があると論文ではまとめられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32498804
冠動脈疾患の遺伝子リスクスコアの有用性についての報告です。ガイドラインベースの臨床的リスクスコアでは補足出来ない潜在的リスクを遺伝子リスクスコアで特定するという試みですが、スタチン治療の適応の判断については4.1%しか変わらなかったとのことで、個人的な印象ですが、4.1%しか変わらないのであれば既存のリスクスコア評価でも大きな問題はないのではと感じました。遺伝子情報がわかると何か劇的に疾病リスクの把握が変わると期待しがちですが、冠動脈疾患とスタチンの適応においてはそこまで劇的に変わるものではないことがわかったと言えるでしょう。
2020/6/9、冠動脈疾患における遺伝子リスクスコアの有用性について調べた研究「Limitations of Contemporary Guidelines for Managing Patients at High Genetic Risk of Coronary Artery Disease」の要旨をまとめました。