2020/8/25、経皮的冠動脈形成術後の虚血性転帰において遺伝子型ガイドの経口P2Y12阻害薬選択と従来のクロピドグレル治療の効果を比較した研究「Effect of Genotype-Guided Oral P2Y12 Inhibitor Selection vs Conventional Clopidogrel Therapy on Ischemic Outcomes After Percutaneous Coronary Intervention The TAILOR-PCI Randomized Clinical Trial」の要旨をまとめました。

2020/8/25、経皮的冠動脈形成術後の虚血性転帰において遺伝子型ガイドの経口P2Y12阻害薬選択と従来のクロピドグレル治療の効果を比較した研究「Effect of Genotype-Guided Oral P2Y12 Inhibitor Selection vs Conventional Clopidogrel Therapy on Ischemic Outcomes After Percutaneous Coronary Intervention The TAILOR-PCI Randomized Clinical Trial」の要旨をまとめました。経皮的冠動脈形成術後、CYP2C19*2またはCYP2C19*3の機能喪失(loss-of-function: LOF)変異は、クロピドグレル治療で虚血性事象のリスクが上昇する可能性があります。遺伝子型ガイドでP2Y12阻害薬治療を選択することが虚血性転機を改善するかどうかは十分にわかっていません。経皮的冠動脈形成術後、CYP2C19機能喪失キャリアにおいて、遺伝子型ガイド経口P2Y12阻害薬選択戦略が虚血性転帰に有効性を調べるために、急性冠症候群または安定冠動脈疾患に対して経皮的冠動脈形成術後5302例を対象にオープンラベル無作為化臨床試験を実施しました。2013年から2018年まで、アメリカ、カナダ、韓国、メキシコ、40施設にて登録、2019年まで追跡しました。無作為化後、遺伝子型ガイド群2652例、ポイントオブケア遺伝子型検査を実施しました。CYP2C19機能喪失キャリアにはチカグレロルを処方、非キャリアにはクロピドグレルを処方しました。無作為化後、従来治療群2650例、クロピドグレルを処方、12ヶ月後に遺伝子型検査を実施しました。主要評価項目は12ヶ月以内の心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、重症虚血の再発の複合としました。副次評価項目は12ヶ月以内の大出血、少出血としました。一次解析はCYP2C19機能喪失変異、二次解析は無作為化全例に対して実施しました。最小ハザード比0.5を85%の検出力としました。結果、5302例、平均年齢62歳、女性25%、急性冠症候群82%、安定冠動脈疾患18%、94%試験完了しました。CYP2C19機能喪失変異1849例のうち、遺伝子型ガイド群の903例中764例(85%)はチカグレロル治療を受け、従来治療群の946例中932例(99%)はクロピドグレル治療を受けました。12ヶ月間の主要評価項目は遺伝子型ガイド治療群のCYP2C19機能喪失キャリア903例中35例(4.0%)、従来治療群946例中54例(5.9%)に発生、有意差(hazard ratio [HR], 0.66 [95% CI, 0.43-1.02]; P = .06)には至りませんでした。事前設定副次評価項目11項目は有意差を認めなく、12ヶ月間の大出血及び少出血に関して、遺伝子型ガイド群CYP2C19機能喪失キャリア1.9%、従来治療群1.6%、有意差(HR, 1.22 [95% CI, 0.60-2.51]; P = .58)には至りませんでした。無作為化全例、主要評価項目は遺伝子型ガイド群2641例中113例(4.4%)、従来治療群2635例135例(5.3%)、有意差(HR, 0.84 [95% CI, 0.65-1.07]; P = .16)を認めませんでした。CYP2C19機能喪失キャリア、急性冠症候群、安定冠動脈疾患で経皮的冠動脈形成術後、経口P2Y12阻害薬の遺伝子型ガイド選択は、ポイントオブケア遺伝子型検査を行わない従来のクロピドグレル治療と比べて、治療効果の検出力の結果、12ヶ月間の事前設定解析計画に基づいた心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、重症虚血再発の複合において統計学的に有意差を認めませんでした。詳しくは論文をご覧ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32840598
経皮的冠動脈形成術後の抗血小板薬の選択において、遺伝子型を調べて遺伝子型に合わせて抗血小板薬を選択した場合と、遺伝子型を調べなかった場合と、特に予後は変わらなかったという報告です。クロピドグレルはプロドラッグで、肝臓におけるシトクロム系、特にCYP2C19によって代謝を受け、活性物となり抗血小板効果を発揮しますが、CYP2C19には遺伝子多型が存在することが知られています。具体的には、変異なし(extensive metabolizer: EM)、1変異(intermediate metabolizer: IM)、2変異(poor metabolizer: PM)の3つに分類され、EMでは抗血小板作用が増強、PMでは抗血小板作用が減弱する可能性が指摘されています。そこで、経皮的冠動脈形成術後の抗血小板薬を選択する際に、CYP2C19の遺伝子多型を調べ、PMの場合にはクロピドグレルではなく、CYP2C19代謝の影響を受けないチカグレロルを選択したほうが、虚血性事象をより抑制する有用性があるのではないかと考えたのが今回の試験です。しかしながら、結果は検出力不足という理由で有意差を認めませんでした。発想は間違っていないとは思うのですが、残念です。詳しくは日本血栓止血学会のページをご覧ください。
https://www.jsth.org/glossary_detail/?id=82


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