・風邪とインフルエンザ→https://ochanai.com/coldandflu
風邪とインフルエンザについてまとめました。風邪とインフルエンザについて、インフルエンザは検査がある、治療薬がある、学校保健安全法に出席停止基準の定めがある、ワクチンがある、等若干の違いがありますが、以下お読みいたければ、風邪とインフルエンザも大きく違いはないということがおわかりいただけると思います。当院でインフルエンザ検査を行っていない理由についても、インフルエンザ検査の精度が十分でないこと、インフルエンザ治療薬の治療効果が大きなものではないこと、学校保険安全法の対象とならない多くの社会人にとって出席停止の法的根拠はないこと、医療経済的に費用対効果に疑問があること、海外では基礎疾患のない方へのインフルエンザ治療薬の投与は推奨されていないこと、インフルエンザ以外に致死的なリスクの高い疾患の診療を行うことの優先順位が高いと当院では判断したため、限りある医療資源の適正配置という視点から、では結局どうすればいいの?まで、詳しくまとめました。テレビや新聞などが「隠れインフルエンザ」などと変な用語を作って不安を煽ったり騒いでいるようですが、メディアの情報に流されずに、一人ひとりがしっかりと情報を判断をしていきましょう。
【風邪かインフルエンザか】
風邪かインフルエンザかを調べたいという希望の方がしばしばいますが、インフルエンザウイルスも風邪症状を引き起こすウイルスの一種です。当院にはインフルエンザ検査がありません。インフルエンザ検査ご希望の方は他の一般内科を受診ください。また後述するように、インフルエンザ検査で「インフルエンザでないこと」は調べられません。
【風邪とインフルエンザ】
風邪とインフルエンザも基本同じです。いずれも急性のウイルス性の感染症です。インフルエンザウイルスも風邪症状を引き起こすウイルスの一種です。急性のウイルス性の感染症のうち、インフルエンザウイルスが原因のものをインフルエンザと呼びます。インフルエンザは検査がある、治療薬がある、学校保健安全法に出席停止基準の定めがある、ワクチンがある、等若干の違いがありますが、以下お読みいたければ、風邪とインフルエンザも大きく違いはないということがおわかりいただけると思います。風邪は自然治癒することが特徴です。自然治癒するのが特徴であるため、特に薬を飲まなければならないという決まりはありません。医療機関を受診する必要性も必ずしもありません。インフルエンザウイルスも風邪症状を引き起こすウイルスの一種です。検査をする医学的意義、治療薬を処方する医学的意義、診断書を出す医学的意義は当院では大きくないという結論に至りました。以下、詳しく説明をまとめました。今回の記事は、エビデンスをベースに踏まえつつ、費用対効果の考察など主観、個人的意見も大いに入っていることにご注意ください。
【当院でインフルエンザ検査を行っていない理由】
当院でインフルエンザ検査を行っていない理由のには、明確な理由があります。下記にいくつか列挙します。
・インフルエンザ検査の精度が十分でないこと:日本では1999年にインフルエンザ迅速検査キットが普及し始めましたが、その検査精度は十分に高くないことがわかっています。具体的には、発症から24-48時間では感度92.0%という報告もありますが、それ以外の時間では35.0%-66.0%という報告されており、「最大で6割以上見逃す検査」であるということです。一方で、特異度は96-100%と非常に高く、検査陽性であればインフルエンザと診断出来るのですが、検査陰性の場合は何も言えない検査であることから、当院ではインフルエンザ検査は臨床的に十分な精度の検査ではないという結論に達しました。特に、インフルエンザ検査で「インフルエンザでないこと」の証明は全く出来ません。
・インフルエンザ治療薬の治療効果が大きなものではないこと:日本では2000年に「リレンザ」が、2001年に「タミフル」が、2010年に「イナビル」が、経口のインフルエンザ治療薬として日本で認可されましたが、その効果は、「発熱時間の短縮」であり、効果の程度は、リレンザ14.4時間、タミフル16.8時間といった程度のものです。実はイナビルに至ってはプラセボと有意差がありません。また、いずれのインフルエンザ治療薬もインフルエンザ脳症等の重症合併症を防ぐエビデンスはありません。効果が解熱時間の短縮だけであれば、その期間、後述する安価で安全な解熱薬「アセトアミノフェン」等にて解熱をする対症療法と臨床的には大きな差がないという結論に達しました。ちなみに、インフルエンザ治療薬のエビデンスについて、名古屋掖済会病院救急科の安藤先生のスライドが非常に詳しいので、ぜひご参考ください。
→https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1627411700650494&id=237933112931700
・学校保険安全法の対象とならない多くの社会人にとって出席停止の法的根拠はないこと:学校保険安全法において、インフルエンザ感染症の出席停止基準「発症後5日間経過かつ解熱後2日間経過」が定めていますが、対象は学校保健安全法の適応となる職場、具体的には小学校、中学校、高校、大学、他、公的な教育機関のみが対象です。実は社会人の出社停止を決めた法的根拠はありません。インフルエンザであれば会社を絶対に休まなくてはならないと思い込んでいる方が非常に多いのですが、民間の会社は、会社独自に社内規定等で出社基準を定めているに過ぎず、法的根拠がありません。社員数50人以上の会社には必ず産業医がいるので、会社の産業医等とよく話し合うようにしてください。「インフルエンザ検査陰性の証明」をもらってくる必要があるという会社や保育所があるようですが、上記の説明の通り、医学的に意義のない証明書は辞めるべきであり、そのような意義のない社内規定を見直すのも産業医の仕事です。産業医がいない場合は使用者が労働衛生上の管理責任を負います。使用者が判断出来ない場合は所轄の保健所や労働基準監督署等に相談しましょう。
・医療経済的に費用対効果に疑問があること:インフルエンザ診療においては全体として一回15000円前後の医療費が掛かっています。具体的には、医療機関にて診察料、検査料、判断料、処方せん料等で8000円前後、薬局にて薬価料、調剤料等で7000円前後、合計15000円前後の国民医療費が掛かっています。夜間や時間外であればさらに時間外の医療費が追加で掛かります。15000円もの国民医療費を掛けて、得られる効果が14.4-16.8時間の「発熱時間の短縮」だけであれば、その時間、安価で安全な「アセトアミノフェン」等の解熱薬を適宜内服しつつ、自宅療養を行うのと、どちらも費用対効果は差はないのではないか、むしろ、自宅療養のほうが優れているのではないかという結論に達しました。
・海外では基礎疾患のない方へのインフルエンザ治療薬の投与は推奨されていないこと:アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、「健常者へのインフルエンザ治療薬の投与を推奨しない」とハッキリと宣言しています。なお、ハイリスク者には投与を考慮となっており、ハイリスク者とは、具体的に、喘息、神経変性疾患、血液疾患、COPD、先天性心疾患、心不全、冠動脈疾患、腎障害、肝障害、代謝障害、病的肥満、19歳未満の長期アスピリン使用者、免疫不全、65歳以上、5歳未満(特に2歳未満)、妊婦(産後2週目まで)等、列挙しています。逆に言えば、いずれにも当てはまらない人への基礎疾患のない方へのインフルエンザ治療薬の投与は海外では推奨されていません。
・インフルエンザ以外に致死的なリスクの高い疾患の診療を行うことの優先順位が高いと当院では判断したため:当院通院中のかかりつけ患者さんは、慢性心不全、陳旧性心筋梗塞、糖尿病、気管支喘息等、感染症のハイリスク患者さんが多くいらっしゃいます。そのような方へインフルエンザ感染を防ぐためにも、感染症を院内に持ち込ませないこと、院内感染予防が重要であると判断しました。また、上記のようにインフルエンザが自然治癒する疾患であるのに対して、高血圧症、脂質異常症、糖尿病等は心血管疾患のリスク因子であり、放置、悪化、重症化すれば、心筋梗塞や脳卒中など致死的な心血管疾患を発症します。循環器疾患を長期に治療継続することこそ致死的疾患のリスクを低減することであり、循環器科としては循環器疾患の診療を行うことの優先順位が高いという結論に至りました。医師としてどうしてこのような考え方に至ったかは、下記に詳しく書きましたので興味があればぜひご覧ください。
なぜ「お茶の水循環器内科」に変えたのかをまとめました。→https://ochanomizunaika.com/2018-0128
・限りある医療資源の適正配置という視点から:当院以外の救急外来や休日診療所等でも「インフルエンザ検査を行わない」という判断をしている医療機関が少しづつ増えて来ているように感じます。理由は、救急救命の現場では、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、心不全、外傷、敗血症、ショック、心停止、など、致死的疾患を救命しなければならない重症疾患が死ぬほどあるからです。日本の医療費、医師、看護師、薬剤師等の医療従事者は限られた医療資源です。本当に必要なところに必要な医療資源を使えるよう、自宅療養で自然治癒する疾患は自宅療養する、など、限りある医療資源の適正配置という視点が大事ではないかと思います。救急外来に風邪かインフルエンザか調べて欲しいという軽症者が殺到している裏で、救急車の受け入れを断られて、命を失っている本当の重傷者がいるかも知れないのです。
以上、当院でインフルエンザ検査を行っていない理由の説明です。これは当院の診療指針ですので、他の医師の診療指針を否定するものでは全くありません。他の医師には他の医師の診療指針があるかと思いますし、それは役割分担、優先順位、考え方の違いですので、どの考え方が正しくて、どの考え方が間違っているなどと批判するものでは一切ありません。インフルエンザ検査は必要だという考え方の医師はインフルエンザ検査をやっていると思います。診療指針の合う医師を受診ください。
【では結局どうすればいいの?】
以上から、風邪でもインフルエンザでも対処法は大きく変わらないことがわかりました。ひき始めには、葛根湯や麻黄湯、水分と栄養を摂って、十分な休養、熱が辛ければアセトアミノフェンを頓服で内服、それで必要十分です。市販で、アセトアミノフェンもPLも手に入る時代ですので、まずはそれで自宅療養で構いません。出社に関しては、上述のように学校保険安全法の対象とならない多くの社会人にとって、定めた法的取り決めはなく、会社ごと独自の社内規定になりますので、会社の産業医等に相談してください。自宅療養の仕方については下記ページにさらに詳しくまとめましたので、ぜひご覧ください。
・風邪の自宅療養→http://ochanai.com/coldhomecare
【最後に】
つい20年前には、インフルエンザ検査も、タミフルもイナビルもありませんでした。それでも毎年冬が過ぎて春になれば、インフルエンザの流行は毎年必ず終わります。海外にはインフルエンザ検査も治療薬もない国もあります。テレビや新聞などが「隠れインフルエンザ」などと変な用語を作って不安を煽ったりなど騒いでいるようですが、大騒ぎする必要など全くないのです。メディアの情報に流されずに、しっかりと一人ひとり情報を判断をしていきましょう。
当院は循環器科です。循環器科とは心臓と血管を専門に診る診療科です。循環器科の診療範囲を具体的にまとめました。
・心筋梗塞、狭心症、急性冠症候群
・虚血性心疾患、陳旧性心筋梗塞、心筋梗塞後の管理、抗血小板療法
・慢性心不全の管理
・心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、他)
・心臓弁膜症(僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、他)
・人工弁置換術後の管理、抗凝固療法
・不整脈(上室期外収縮、心室期外収縮、洞不全症候群、房室ブロック、WPW症候群、発作性上室性頻拍、心房細動、心房粗動、他)
・心房細動の抗凝固療法、心原性脳塞栓症の予防
・脳血管障害、脳梗塞(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症)、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作
・高血圧症、二次性高血圧症
・脂質異常症、家族性高コレステロール血症
・糖尿病、糖尿病合併症
・慢性腎臓病
・睡眠時無呼吸症候群
・その他、検診異常の再検査、食事指導、運動指導、禁煙外来、など
以上、心臓と血管を専門に診る診療科が循環器科です。脳梗塞や脳出血等の脳血管障害、脳卒中は神経内科や脳神経外科が診ることも多いですが、血管の故障の予防という意味ではやるべきことは循環器科と共通です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病等の生活習慣病も循環器病のリスク因子という点で循環器科の守備範囲です。心筋梗塞や脳卒中にならないようにする、なってしまっても再発しないようにする、というのが循環器科の仕事です。
一方で、当院は「一般内科」ではありません。循環器疾患の患者さんは感染症に掛かってしまうと重症化してしまう危険性があります。院内感染防止の観点から、発熱や咳等の感染症を疑う症状を認める場合は可能な限り、他の一般内科等を受診ください。具体的には、発熱、インフルエンザ、咳等は「一般内科」、扁桃炎や副鼻腔炎等は「耳鼻咽喉科」、長引く咳や痰は「呼吸器内科」、吐気や下痢等は「消化器内科」をご受診ください。どうかご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。随時紹介状の発行も行っていますのでお気軽にご相談ください。