2020/10/28、動脈硬化性心血管疾患の一次予防のためのアスピリンの総合ベネフィットと冠動脈石灰化評価の有用性について調べた研究「Value of Coronary Artery Calcium Scanning in Association With the Net Benefit of Aspirin in Primary Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease」の要旨をまとめました。

2020/10/28、動脈硬化性心血管疾患の一次予防のためのアスピリンの総合ベネフィットと冠動脈石灰化評価の有用性について調べた研究「Value of Coronary Artery Calcium Scanning in Association With the Net Benefit of Aspirin in Primary Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease」の要旨をまとめました。高度の冠動脈石灰化は動脈硬化性心血管疾患リスク上昇の特定に有用です。アスピリン治療の総ベネフィットの特定に対して有用かどうかは十分にわかっていません。冠動脈石灰化と、出血、動脈硬化性心血管疾患との関係、冠動脈石灰化の層別化とアスピリンの総推算効果を評価するために、「Dallas Heart Study」の登録者、ベースラインでアスピリン投与なし、動脈硬化性心血管疾患なしを対象に、前向き集団コホート研究を実施しました。2020年、データ解析を実施しました。冠動脈石灰化スコアによって、0、1-99、100以上、カテゴリ分類しました。主要評価項目はICD-9改訂版「International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Ninth Revision codes」に従い、大出血、動脈硬化性心血管疾患としました。アスピリン影響推算メタ解析、冠動脈石灰化層別化、アスピリン総影響モデル、動脈硬化性心血管疾患、出血率を評価しました。結果、全2191例、平均年齢44歳、女性1247例(57%)、黒人1039例(47%)、中央値12.2年間の追跡期間中、大出血116例、動脈硬化性心血管疾患123例、発生しました。冠動脈石灰化スコア1-99、100以上と高値のカテゴリは、冠動脈石灰化スコア0のカテゴリと比べて、動脈硬化性心血管疾患、出血事象の有意な上昇(hazard ratio [HR], 1.6; 95% CI, 1.1-2.4; HR, 2.6; 95% CI, 1.5-4.3; HR, 4.8; 95% CI, 2.8-8.2; P < .001; HR, 5.3; 95% CI, 3.6-7.9; P < .001)を認めましたが、多変量調整後、冠動脈石灰化と出血との関係は低下しました。メタ解析推算では、冠動脈石灰化に関わらず、アスピリンの使用は、10年間動脈硬化性心血管疾患リスクが低値(5%未満)、中程度(5-20%)の場合においては総合的に有害(harm)であり、10年間動脈硬化性心血管疾患リスクが高値(20%以上)の場合には総合的に有益(benefit)であると推算されました。出血リスク低値の場合においては、冠動脈石灰化スコア100以上は、10年間動脈硬化性心血管疾患リスクが境界型(5%以上)の例においてのみ、総合的に有益でした。出血リスク高値の場合においては、冠動脈石灰化、動脈硬化性心血管疾患リスクに関わらず、アスピリンは総合的に有害と考えられました。冠動脈石灰化高値は動脈硬化性心血管疾患、出血事象の両方と関連を認め、特に動脈硬化性心血管疾患と強い関連を認めました。冠動脈石灰化高値は一次予防におけるアスピリン治療の総合的に有益な例と、そうではない例を導き出すのに有益でしたが、出血リスク低値で動脈硬化性心血管疾患リスクが低値ではない場合のみに限りました。詳しくは論文をご覧ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33112372
アスピリンの心血管疾患一次予防における有益な集団の層別化に冠動脈石灰化スコアが参考にならないか調べた研究です。出血リスクが低く、動脈硬化性心血管疾患リスクが高い例に対しては、アスピリンの心血管疾患一次予防の有益性はあるだろうとの報告です。一方で、出血リスクが高い例に対してはアスピリンの出血への有害性のほうが大きいとの結論です。メディカルトリビューンでも記事になっていました。
https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1110533371
実臨床においても、軽度から中程度の冠動脈病変を認め、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙等、冠動脈疾患のリスクが高い例に対しては、十分な降圧管理のもと、医師の判断で心血管疾患一次予防目的にアスピリンを使用しています。個々の場合について、実臨床においても医師は総合的な臨床有益性(net clinical benefit)を計算しているとも言えます。詳しくは主治医とご相談ください。


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