2020/4/17(金)、心筋梗塞後の動脈硬化性心血管疾患予防におけるガイドライン推奨治療のアドヒアランスについての研究「Adherence to Guideline Medication Recommendations to Prevent Atherosclerotic Cardiovascular Disease Progression Among Adults With Prior Myocardial Infarction」の結果をまとめました。

2020/4/17(金)、心筋梗塞後の動脈硬化性心血管疾患予防におけるガイドライン推奨治療のアドヒアランスについての研究「Adherence to Guideline Medication Recommendations to Prevent Atherosclerotic Cardiovascular Disease Progression Among Adults With Prior Myocardial Infarction」の結果をまとめました。急性期治療の進歩によって、心筋梗塞は現在助かるようになりましたが、再発のリスクは残るため、二次予防(secondary prevention)が重要になりました。先行研究によると、心筋梗塞後、退院後の治療がほとんど評価されていないという報告がありました。二次予防治療において、アドヒアランスの継続は心筋梗塞の再発、心不全、心血管死のリスクを著しく減少させることが可能です。アメリカにて、心筋梗塞の既往があり、LDLコレステロール値が上昇している例に対し、エビデンスに基づいた二次予防治療の大規模コホート研究を実施しました。「GOULD」(Getting to an Improved Understanding of Low-Density Lipoprotein Cholesterol and Dyslipidemia Management)試験は、アメリカにて、動脈硬化性心血管疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)があり、LDLコレステロール値が70mg/dLまたはPCSK9阻害薬(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 inhibitor)の投与を受けている例の前向きコホート研究です。2016年から2018年、199施設(循環器内科46%、プライマリケア45%、他9%)、2年間追跡しました。全ての参加者はインフォームドコンセントを受け、「STROBE」(Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology)の報告ガイドラインに従いました。症例データは電子カルテの記述から収集しました。至適薬物療法(Optimal medical therapy: OMT)として、心筋梗塞後1年以内のP2Y12阻害薬を含む抗血小板薬、抗凝固薬、3年以内の高用量スタチン、β遮断薬、糖尿病がある場合のACE阻害薬、ARB 、と定義しました。患者因子、薬物療法は、心筋梗塞後1年以内群と1年以降群で、χ二乗検定、Kruskal-Wallis検定を行いました。バージョン9.4のSAS統計ソフトウェアを解析に使用しました。統計学的有意は両面においてP<0.05と定義しました。結果、動脈硬化性心血管疾患で心筋梗塞の既往がある1564例、259例(16.6%)は心筋梗塞後1年以内、平均年齢67例(四分位範囲59-73歳)、男性1055例(67.5%)、糖尿病589例(37.7%)、平均LDLコレステロール値90mg/dL(四分位範囲78-113)でした。スタチン使用1361例、758例(48.5%)は高用量スタチンを投与、1475例(94.3%)は抗血小板薬または抗凝固薬を投与していました。心筋梗塞から1年以内の259例のうち、177例(68.3%)は抗血小板薬2剤併用療法(dual-antiplatelet therapy)か、P2Y12阻害薬と抗凝固薬の併用を行っており、160例(61.8%)は高用量スタチン、211例(81.5%)はβ遮断薬、164例(63.3%)はACE阻害薬またはARBを投与していました。全体として、1564例中571例(36.5%)は心筋梗塞再発延長のための二次予防のための至適薬物療法を受けていました。心筋梗塞の既往があり、LDLコレステロール値の高い例におけるアメリカの大規模コホート研究において、二次予防のための認識のギャップがあることを同定しました。心筋梗塞の既往があり、LDLコレステロール値の上昇している例では、虚血性事象の再発の特にハイリスクであり、生存期間と生活の質の最大化のために積極的な治療介入が必要です。先行研究では、退院時の二次予防治療の処方率は高いにも関わらず、根気よさがない(nonpersistence)場合、臨床判断等の結果、予防療法の集中は時間とともに薄れてしまうことが多いです。根気よく(Persistence)二次予防の治療継続を行うことで、虚血性事象の再発、心不全、心血管死亡率を減らすことが可能です。心筋梗塞の既往があり、LDLコレステロール値の高いハイリスク例において、二次予防治療を退院直後だけではなく、長期に積極的に継続することは不可欠(must be a priority)です。この研究はいくつかの限界があります。薬物の禁忌(contraindications)、患者の嗜好、アドヒアランスのなさを評価出来ていないため、現在の治療に反して、改善の機会を高く見積もっている可能性があります。LDLコレステロール値が組み込み基準であるために、至適治療の体語の一部でしかないものの、高用量スタチン不耐の例を誇大評価している可能性があります。さらに、ハイリスク例のみをコホート研究に組み込んでいるため、処方の意思決定の影響を受けており、この研究結果が心筋梗塞の既往があり、LDLコレステロール値のコントロール良好な例に対しても一般化可能かどうかは不明です。詳しくは論文をご覧ください。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2764650
色々と考察されていますが、心筋梗塞後、二次予防のための至適薬物療法をちゃんと受けていた割合は、36.5%しかなかったという報告です。特に、退院直後はまだ良いが、その後時間が経つにつれて継続率は下がってしまうとのことで、これが心筋梗塞の再発がなくならない理由です。治療継続の低さを、論文では、「nonpersistence」(根気よさがないこと等の意味)の一言でまとめてしまっていますが、医療機関側の因子、仕事や職場等の因子、保険制度等の因子、忙しさ、優先順位など様々な社会的決定因子が関係しているのではないかと考えています。お茶の水循環器内科が夜間や土日も診療していたり、電話診療等を積極的に取り入れたりしているのはこのあたりが理由です。


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