2020/4/29(水)、PCSK9阻害薬と大動脈弁狭窄症の探索的研究「An Exploratory Analysis of Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9 Inhibition and Aortic Stenosis in the FOURIER Trial」の結果をまとめました。

2020/4/29(水)、PCSK9阻害薬と大動脈弁狭窄症の探索的研究「An Exploratory Analysis of Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9 Inhibition and Aortic Stenosis in the FOURIER Trial」の結果をまとめました。重症大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis: AS)は、治療の進歩にも関わらず、疾病修飾治療が発見されていない致死的病態です。LDLコレステロール、リポタンパク(a)、Lp(a)が大動脈弁狭窄症の病態に関連していることがわかっています。PCSK9阻害薬(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 inhibitor)のエボロクマブ(evolocumab)はLDLコレステロール濃度を50%から60%、Lp(a)を20%から30%低下させます。動脈硬化性心血管疾患において、エボロクマブが大動脈弁狭窄症のイベントリスクを減らすかどうか調べるために、「FOURIER」試験の探索的研究として、2013年から2016年まで、49カ国、1242施設において、スタチン治療を受けている安定動脈硬化性心血管疾患27564例を対象に、エボロクマブ群とプラセボ群に無作為に割り振り、平均2.2年追跡しました。大動脈弁狭窄症の新規または増悪の有害事象、大動脈弁狭窄症事象を大動脈弁置換術(aortic valve replacement)と定義しました。Lp(a)濃度、LDLコレステロール濃度、年齢、性別、糖尿病、高血圧、現在の喫煙、推算糸球体濾過量等も含む多変量モデル、調整後大動脈弁狭窄症事象を計算しました。エボロクマブの有効性はCox比例ハザードモデルによって判定しました。2.2年間の追跡の結果、大動脈弁狭窄症事象は63例に発生、男性48例(76%)、平均年齢69歳でした。多変量調整後、Lp(a)濃度の上昇は、大動脈弁狭窄症事象の高い発症率と関連(調整後HR 1.55 95%CI 1.17-2.05 per SD P=0.002)を認めました。大動脈弁置換術も関連(aHR 2.22 95%CI 1.38-3.58 per SD P=0.001)を認めました。LDLコレステロール濃度は大動脈弁狭窄症事象(aHR, 1.23 [95% CI, 0.93-1.61 per SD P=0.14)とは有意差を認めませんでした。エボロクマブの大動脈弁狭窄症事象に対する全体のハザード比は0.66(95% CI, 0.40-1.09)で、初年度(HR, 1.09 [95% CI, 0.48-2.47])には有意差を認めませんでしたが、1年間後移行(HR 0.48 (95% CI, 0.25-0.93)には有意差を認めました。FOURIER試験の探索的研究の結果、Lp(a)高値は、大動脈弁置換術を含む、大動脈弁狭窄症事象のリスク高値と関係を認めましたが、LDLコレステロール値とは関係がありませんでした。エボロクマブの長期治療は大動脈弁狭窄症事象を減らすかも知れません。この研究から、特定の脂質低下療法は、大動脈弁狭窄症の進行を遅らせたり、防ぐ可能性が浮かんで来ました。今後の無作為化臨床試験が望まれると論文ではまとめています。
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/article-abstract/2764762
大動脈弁狭窄症の進行を抑制することが証明されている治療法はありません。大動脈弁狭窄症の進行のリスク因子として、LDLコレステロールではなく、リポタンパク(a)が関連をしており、リポタンパク(a)を低下させることによって大動脈弁狭窄症の進行を防げないかという仮説です。大動脈弁狭窄症の進行のリスク因子としては第一に血圧管理であると考えていますが、脂質管理も関係する可能性があることがわかったというのが新しい発見です。


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