2020/3/24(火)、COVID-19とACE阻害薬、ARBとの関係についてのアメリカ医師会の見解「COVID-19 and Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockers: What Is the Evidence?」の内容をまとめました。

2020/3/24(火)、COVID-19とACE阻害薬、ARBとの関係についてのアメリカ医師会の見解「COVID-19 and Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockers: What Is the Evidence?」の内容をまとめました。COVID-19は1本鎖プラス鎖RNAウイルスで、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)とも呼ばれています。死亡率は1%から5%と言われていますが、肺疾患、心疾患、腎疾患、糖尿病、高血圧等の併存併存疾患を合併している高齢者は死亡率が上昇することが知られています。重症化率、罹患率の上昇と高血圧が関連をしていることは初期の中国の疫学研究によって観察されていました。201例の報告では高血圧があると死亡率は1.70倍、急性呼吸促迫症候群は1.82倍、別の191例の報告では高血圧があると入院中の死亡率3.05倍などと報告されていましたが、因果関係によるものなのか、他の併存疾患や治療によるものなのか不明でした。また、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin-converting enzyme inhibitors: ACEIs)、アンギオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blockers: ARBs)など、高血圧の治療薬との関係も考慮しなくてはなりません。ACE阻害薬とARBは、アンギオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2: ACE2)、SARS-CoV-2とも関連が知られています。ACE2はSARS-CoV-2が細胞内に侵入する際のコレセプターであることが病理所見から明らかになって来ました。ACE2は人体に広範囲に発現しており、特に消化管系、心臓、腎臓に強く発現されていることが知られていますが、近年は肺のII型肺胞上皮細胞(type II alveolar cells)にも発現していることがわかって来ました。一つの仮説として、ACE阻害薬は直接的にはACE2を阻害しますが、ACE2のカルボキシペプチダーゼ機能はACE阻害薬によっては阻害さないこと、またACE阻害薬、ARBはACE2の発現を増加させ、細胞内への侵入の感受性や伝播に関連するのではないかと動物モデルでは考慮されています。ヒトでは、ARBの投与によって、ACE2が心臓、脳、尿の発現が増加することが確認されていますが、血清ACE2値には影響を与えないくらいの限られた変化です。COVID-19の因果関係、死亡率おけるACE2の有意性は詳しくわかっていません。ACE2は一時的にはACEの効果を均衡するような役割です。ACEはアンギオテンシンIからアンギオテンシンIIを生成、ACE2はアンギオテンシンIIからアンギオテンシン(1-7)を生成、Mas受容体に結合した後、Mas受容体を活性化させ、アンギオテンシンIIの血管収縮作用を血管拡張作用へとシフト、平衡、有効血管床(effected vascular bed)を拡大します。この血管拡張作用(vasodilatory effect)はCOVID-19においては不明ですが、動物では関連が示唆されています。ACE2、アンギオテンシン(1-7)は、様々な肺損傷モデルにおいて保護的に働いています。マウスにおいて酸による肺損傷モデルでは、2003年にアウトブレイクしたSARS-CoVによってACE2のダウンレギュレーションを認めました。悪化した肺損傷はARBによる治療で改善しました。これはSARS-CoVが肺損傷を悪化させる時に、ACE2の減少によって起こしており、ARBの投与によって回復することを示唆しているかも知れません。しかしながら、前臨床データは、ACE2の発現が増加することはSARS-CoV-2による肺損傷を軽減することを示唆していますが、臨床においてACE2がウイルスによる肺損傷の治療に効果があることの直接的なエビデンスではありません。また、予備試験では、ACE2を急性呼吸促迫症候群10例に投与しましたが、ヒトの呼吸機能の効果を証明出来ませんでした。前臨床データとしては潜在的にベネフィットがあるメカニズムを示唆していますが、ACE阻害薬、ARBがSARS-CoV-2による肺損傷の重症度を低下させるかのエビデンスとしては不十分です。エビデンス不足にも関わらず、高血圧を合併するCOVID-19の治療の期間中は、ACE阻害薬、ARBまたは両方の、使用または中止について両方の意見(advocates)があります。高血圧治療を変えて欲しいとせがんだり、どうすべきか主治医に言われたことに不安感を抱いてしまったりしています。降圧薬治療を変えることはかかりつけの薬局へ訪問したり、血液検査を入手したり、感染リスクへの暴露を増やしてしまします。降圧薬治療のクラスを変えることは、さらに内服頻度の調整、副作用の管理などで、医療エラーのリスクを増やしてしまいます。ヨーロッパ心臓病学会(European Society of Cardiology)の高血圧委員会では以下のようなステートメントを発表しています。
「高血圧委員会では臨床医と患者に通常通りの降圧薬治療を継続するように強く推奨しています。なぜなら、COVID-19感染によってACE阻害薬、ARBを中止しなければならないという臨床的、科学的エビデンスは存在しないからです。」
このステートメントと同様に他の学会からも、現在の高血圧治療を続けるように同様のステートメントが出されてます。2020/3/17、アメリカ心臓病協会(American Heart Association)、アメリカ心不全学会(Heart Failure Society of America)、アメリカ心臓病学会(American College of Cardiology)は、処方されたACE阻害薬、ARBを継続するように、また、COVID-19で薬剤を変える必要がある場合には注意深い評価が完了してからにするべきだと、共同ステートメントを発表しました。COVID-19において高血圧の最適な管理の仕方を決定するには臨床的、科学的に十分なエビデンスありません。研究者コミュニティはCODIV-19とACE2の因果関係において、レニンアンジオテンシン系のより良くよい解明をする機会であり、臨床では、ACE阻害薬、ARB、または両方の使用と、COVID-19の重症化率、死亡率との関係のデータを蓄積する必要があります。方針の意思決定のために双方がデータを集め、臨床家は患者の懸念に耳を傾けつつ、COVID-19パンデミック時代の降圧薬治療について安心するようなアドバイスするべきだろうとまとめています。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2763803
2020/3/24のJAMAの記事です。高血圧でCOVID-19の重症化率、死亡率が上昇することに関して、アメリカでは高血圧治療でよく使われるACE阻害薬、ARBがテーマとなっているようですが、何のエビデンスがあるのか?(What Is the Evidence?)というタイトルの記事で、現時点では特にACE阻害薬、ARBを中止しなければならないというエビデンスはないので、今まで通りの降圧薬治療を継続するようにと注意を呼び掛けました。日本ではまだほとんど騒がれていませんが、マスコミ等の格好のネタになりそうなので注意が必要です。わからないことがあれば主治医またはかかりつけ薬剤師までご相談ください。


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