2020/4/22(水)、心不全においてガイドライン通りの至適薬物療法の難しさを評価した研究「Assessment of Limitations to Optimization of Guideline-Directed Medical Therapy in Heart Failure From the GUIDE-IT Trial: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial」の結果をまとめました。

2020/4/22(水)、心不全においてガイドライン通りの至適薬物療法の難しさを評価した研究「Assessment of Limitations to Optimization of Guideline-Directed Medical Therapy in Heart Failure From the GUIDE-IT Trial: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial」の結果をまとめました。ガイドライン指示通りの薬物療法(guideline-directed medical therapy: GDMT)は心不全、駆出率低下の転帰を改善しますが、治療不足(undertreated)の場合も多いです。「GUIDE-IT」(Guiding Evidence-Based Therapy Using Biomarker Intensified Treatment)試験では、ガイドライン指示通りの薬物療法に対して最適化するために、NT-proBNP濃度を指標とした治療戦略が転帰を改善するかどうかを調べました。2013年から2016年まで、アメリカ、カナダ、45施設にて、無作為化臨床試験を実施しました。駆出率40%以下に低下した心不全894例を対象に、NT-proBNP濃度を1000pg/dL未満に維持することを目標とした治療と、従来治療とに無作為に割り振りました。二次解析としては薬物療法の滴定、介入がどうして転帰を改善しなかったのか理由を考えました。結果、838例を解析、男性566(67.5%)、平均年齢62.0歳、24ヶ月間で6223回の外来受診がありました。心不全治療の調整は、NT-proBNP 1000pg/dLを越えている862例(96.4%)において、5218回の外来受診うち2847回(54.6%)実施されました。ほとんどの調整は最初の6ヶ月間以内、特に最初の6週間以内に実施れました。調整がなかった場合の最も多くの理由は、臨床的に落ち着いていたから、またはすでに最大耐量の治療がなされていたからでした。ガイドライン指示通りの至適薬物療法を達成していたのはたった130例(15.5%)でした。具体的には、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド拮抗薬、6ヶ月後時点でをターゲット投与量の50%以上投与していることです。ベースラインの79例(8.9%)からは増加していましたが、両群間で差を認めませんでした。高用量のβ遮断薬は心不全入院と心血管死の複合転帰(HR 0.98 95%CI 0.97-1.00 P=0.008)、全死亡(HR 0.97 95%CI 0.95-0.99 P=0.01)のリスク減少を認めました。高用量のACE阻害薬(HR 0.84 95%CI 0.75-0.93 P<0.001)、ARB(HR 0.84 95%CI 0.71-0.99 P=0.04)は全死亡低下と関連を認めました。ミネラルコルチコイド拮抗薬の投与量を増やしても転帰の向上との関連は認められませんでした。アプローチの仕方に関わらず、NT-proBNP濃度の上昇がわかっていたとしても、ガイドライン指示通りの至適薬物療法を受けている例は多くないことがわかりました。この結果は心不全において薬物療法の効果をさらに最大化させるための機会が残されていることを示唆しています。「GUIDE-IT」試験は治療利益の達成は出来ないでしょう。なぜなら、実臨床において治療イナーシャ(therapeutic inertia)、または現在のガイドライン指示通りの薬物療法のゴール設定が非現実的であるからですと論文ではまとめています。詳しくは論文をご覧ください。
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/article-abstract/2764433
β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド拮抗薬は、全ての心不全治療の基本薬ですが、実臨床では全て投与されていないことも少なくありません。至適薬物療法の達成率は15.5%しかなかったという報告です。確かに、β遮断薬の増量は本来は最大を目指すべきですが、増量のタイミングを失ってしまうとそのままになっていることはしばしばあります。この研究ではNT-proBNPが1000を超えていたら処方を見直すというプロトコルにしていますが、よく問診をするとNT-proBNPが300や400を超えたあたりから軽度の心不全症状は出ていることが多いので、さらにきめ細やかな調整は可能だと感じています。新薬の開発等だけではなく、既存にあるものが十分に活用されていない、既存にあるものでさらに治療効果を改善する余地が残っているという研究のアプローチは興味深いです。詳しくは主治医までご相談ください。


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