2020/5/19、静脈血栓塞栓症リスクへのPCSK9阻害薬の効果について調べた研究「The Effect of PCSK9 (Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9) Inhibition on the Risk of Venous Thromboembolism」の結果をまとめました。

2020/5/19、静脈血栓塞栓症リスクへのPCSK9阻害薬の効果について調べた研究「The Effect of PCSK9 (Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9) Inhibition on the Risk of Venous Thromboembolism」の結果をまとめました。コレステロール値と静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)リスクとの関連を調べるために、血栓塞栓症リスクに対するPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害、潜在的機序、臨床的、遺伝的にハイリスク例への効果を検討しました。「FOURIER」(Further Cardiovascular Outcomes Research With PCSK9 Inhibition in Subjects With Elevated Risk)の事後解析にて、エボロクマブが静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)を減らすかどうか調べました。「FOURIER」試験、「ODYSSEY OUTCOMES」(Evaluation of Cardiovascular Outcomes After an Acute Coronary Syndrome During Treatment with Alirocumab)試験、静脈血栓塞栓症リスクに対するPCSK9阻害薬の効果をメタ解析を実施しました。エボロクマブによる静脈血栓塞栓症の減少を説明する潜在的機序についても解析を実施しました。最後に、探索的遺伝子解析を行い、静脈血栓塞栓症の遺伝的リスクスコアによって、エボロクマブで静脈血栓塞栓症の最も減少が期待出来るハイリスク群の特定が可能かどうか調べました。結果、「FOURIER」試験では、エボロクマブ投与群で静脈血栓塞栓症のハザード比は0.71(95% CI, 0.50-1.00; P=0.05)で、最初の1年以内では効果なし(HR, 0.96 [95% CI, 0.57-1.62])でしたが、1年後以降は46%減少(HR, 0.54 [95% CI, 0.33-0.88]; P=0.014)を認めました。「FOURIER」試験、「ODYSSEY OUTCOMES」試験のメタ解析では、PCSK9阻害薬による静脈血栓塞栓症の相対リスク減少は31%(HR, 0.69 [95% CI, 0.53-0.90]; P=0.007)を認めました。開始時のLDLコレステロール値は静脈血栓塞栓症リスク減少の程度とは関連がありませんでした。一方で、開始時のリポ蛋白(a)高値は、エボロクマブ投与によって33nmol減少、静脈血栓塞栓症リスク48%減少(HR, 0.52 [95% CI, 0.30-0.89]; P=0.017)を認めました。開始時のリポ蛋白(a)値低値の場合には、エボロクマブは7nmolしか減少させず、静脈血栓塞栓症リスク減少の効果(Pinteraction 0.087 for HR; Pheterogeneity 0.037 for absolute risk reduction)は認めませんでした。開始時のリポ蛋白(a)濃度と静脈血栓塞栓症リスク減少の程度は有意な相関関係(Pinteraction=0.04)を認めました。遺伝的リスクスコアで、静脈血栓塞栓症リスクが2倍以上と特定された例は、遺伝的リスクスコア高値ではない場合と比べて、相関関係(Pinteraction=0.04)を認め、静脈血栓塞栓症の絶対減少(Pheterogeneity=0.009)を認めました。PCSK9阻害薬は静脈血栓塞栓症リスクを有意に減少しました。リポ蛋白(a)の減少がこの効果の重要な媒介因子である可能性があり、現在開発中のリポ蛋白(a)阻害薬の効果が期待されるかも知れないと論文ではまとめています。詳しくは論文をご覧ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32223429
PCSK9阻害薬はLDLコレステロール低下のための薬ですが、リポ蛋白(a)高値の群に対しては静脈血栓塞栓症リスク減少効果も認められたとの結果です。リポ蛋白(a)は脂質代謝にも血栓形成にも両方にも関連している可能性があるとのことで、リポ蛋白(a)の直接阻害薬への期待が高まります。


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