「急性・慢性心不全診療ガイドライン」における心不全ステージ分類と心不全の予防の重要性についてまとめました。

「急性・慢性心不全診療ガイドライン」における心不全ステージ分類と心不全の予防の重要性についてまとめました。2018年3月、日本循環器学会、日本心不全学会らから、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が発表されました。

「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」→http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf

心不全の予防の観点から要点をまとめてみようと思います。ガイドラインの一番の特徴は、心不全を一連の病態としてステージ分類し、より早期のステージで予防の重要性を強調したことでしょう。斬新なところは、心不全の症候を認め、症候性心不全のステージだけではなく、心不全症候を認めない、心不全リスクのステージもガイドラインに含めたことです。これは心不全は予防が非常に重要だからです。具体的には、

「心不全リスク」

・ステージA:器質的心疾患のないリスクステージ、危険因子あり、器質的心疾患なし、心不全症候なし、高血圧、糖尿病、動脈硬化性疾患などの状態です。身体機能障害はなく、危険因子のコントロールと器質的心疾患の発症予防が治療目標です。器質的心疾患とは心筋梗塞を代表とする心機能に障害を与える心血管疾患のことです。心血管疾患の一次予防のために、高血圧症、脂質異常症、糖尿病等の冠危険因子の管理が重要で、当院通院中の方の40%程度が該当します。まだ循環器疾患という意識は薄いですが、心筋梗塞を発症させないこと、危険因子の段階に留めておくこと、可能な限り食事療法や運動療法で危険因子がない状態へ戻すことがゴールです。

・ステージB:器質的心疾患のあるリスクステージ、危険因子あり、器質的心疾患あり、心疾患症候なし、虚血性心疾患、左室リモデリング(左室肥大、駆出率低下)、無症候性弁膜症などの状態です。身体機能障害はないかあっても軽微な段階ですが、心筋梗塞等の心血管疾患は致死的不整脈等の突然死のリスクになります。器質的心疾患発症後は、器質的心疾患の進展予防と心不全の発症予防が治療目標です。心筋梗塞や狭心症を一度起こしており、ステント留置後の抗血小板療法、血圧管理、脂質管理がメインで、当院通院中の患者さんの30%程度が該当します。心不全を起こさないこと、心筋梗塞を再発させないことがゴールです。多くの患者さんをここまでで留めたいところです。ステージC、症候性心不全のステージでは「五年生存率が60%程度」と言われています。

「症候性心不全」

・ステージC:心不全ステージ、器質的心疾患あり、心不全症候あり(既往も含む)のステージです。心不全の定義とは「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」または、一般向けの定義(わかりやすく表現したもの)として、「心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気です.」と、定義されました。急性心不全を発症し、慢性心不全の急性増悪(急性心不全)反復と、急性心不全と慢性心不全を別に扱うのではなく、慢性心不全の急性増悪として一連の病態として記載しています。急性心不全や慢性心不全の急性増悪で身体機能は大きく障害され、重症度によっては入院治療が必要になります。心不全のステージが進んでしまうと前のステージに戻せる治療法がほとんどありません。これが心不全は予防が重要という理由です。症状コントロール、QOL改善、入院予防、再入院予防、死亡回避が治療目標です。当院通院中の患者さんの15%程度が該当します。

・ステージD:治療抵抗性心不全ステージ、心不全治療抵抗性で、治療抵抗性(難治化・末期)心不全という状態です。慢性心不全の急性増悪を繰り返し、入退院を繰り返し、心不全が難治化した状態です。このステージから前のステージに戻すことが原則出来ません。治療目標は、症状コントロール、QOL改善、入院予防、再入院予防、死亡回避、緩和ケア、終末期ケアです。病院または在宅で治療をしていることがほとんどで、当院通院中の方は該当しません。ちなみに、当院受診の残りの15%程度は健診異常や動悸や胸痛の精査の受診が占めています。

以上から、心不全はステージが進行すればするほど予後が悪く、ステージを進行させないように、ステージAやBで押さえたいというのがメッセージです。「心不全は4回予防出来る」という言葉が印象的で、生活習慣の改善、検診、一次予防、二次予防、この4つで心不全を防ぐことが非常に重要です。また、ガイドラインでは心不全の危険因子のある場合にBNPまたはNT-proBNPの測定を推奨しています。それはステージBの自覚症状がほとんどない無症候性心不全の状態でも、心不全の早期検出に優れているからです。これが心血管疾患の危険因子を持つ患者さんが定期的に採血が必要な理由の一つです。

お茶の水循環器内科が循環器に特化しているのは、この心不全を防ぎたいからです。このままだと、「心不全パンデミック」と呼ばれるくらい、心不全患者が増えてしまうことが予測されています。心不全はステージが進行してしまった後に元に戻す治療法が原則ありません。予防が一番の治療法なのです。または心不全発症の原因は非常に多岐に渡りますが、一番多いのは虚血性心疾患、心筋梗塞です。心筋梗塞は冠危険因子の管理によって防ぐことが可能です。お茶の水循環器内科が自然治癒傾向の高い疾患や医療必要度の低い疾患の診療を行っていないで、循環器に特化して診療しているのはこのためです。そのために「その医療は心筋梗塞を減らすだろうか?」というミッションで、循環器に特化してお茶の水循環器内科は診療を行っており、今後も循環器専門であることを変える予定はありません。循環器以外の症状の受診の場合は、東京都医療機関案内ひまわり(☎ 03-5272-0303)をご活用ください。幸い、首都圏には夜間や土日も診療しているクリニックが増えて来ています。随時紹介状の発行も行っていますのでお気軽にご相談ください。ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。


【お茶の水循環器内科になりました】
お茶の水循環器内科院長の五十嵐健祐と申します。当院は2014年秋、「心血管疾患の一次予防」を理念に神田小川町にてスタートしました。2016年春、現在の神田神保町にお引越し、2018年春、医療法人化に伴い、「その医療は心筋梗塞を減らすだろうか?」という行動規範のもと、循環器専門の医療機関に生まれ変わりました。
ミッション→https://ochanomizunaika.com/mission
我々の使命は「世の中から救えるはずの病気をなくすこと」です。世の中には救える病気とそうでない病気があります。その中で、心筋梗塞と脳卒中は血管の故障が原因であり、血管を守ることで予防が可能です。血管を守るとは、具体的に、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、心房細動、慢性腎臓病等の心血管疾患の危険因子に対して適切な治療介入と治療継続をすることです。そのために、循環器専門の医療機関として特化し、夜間も土日も診療をオープンにし、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、心房細動、慢性腎臓病等の心血管疾患の危険因子に対して適切な治療介入と治療継続、循環器疾患の一次予防、二次予防のために診療を行っています。心筋梗塞と脳卒中を防ぎ、「世の中から救えるはずの病気をなくすこと」、これが我々の使命です。新しく生まれ変わったお茶の水循環器内科をどうぞよろしくお願いいたします。
2018年4月1日、お茶の水循環器内科院長五十嵐健祐

【具体的な診療範囲】

当院は循環器専門の医療機関です。循環器とは心臓と血管を専門に診る診療科です。具体的には、狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患、抗血小板療法、抗凝固療法、心房細動を始めとする不整脈、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病、慢性心不全などの循環器疾患です。循環器の診療範囲を具体的にまとめました。
・冠動脈疾患(急性心筋梗塞、労作性狭心症、他)
・心筋梗塞後、ステント留置後の管理、抗血小板療法
・慢性心不全の管理
・心臓弁膜症(僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、他)
・人工弁置換術後の管理、抗凝固療法
・心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、他)
・不整脈(上室期外収縮、心室期外収縮、房室ブロック、心房細動、他)
・心房細動の抗凝固療法、心原性脳塞栓症の予防
・脳卒中、脳血管障害、脳梗塞(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症)、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作、脳卒中後の管理、二次予防、再発予防
・高血圧症、二次性高血圧症
・脂質異常症、家族性高コレステロール血症
・糖尿病、糖尿病合併症の管理
・慢性腎臓病
・睡眠時無呼吸症候群
・その他、健診の再検査、食事指導、運動指導、禁煙外来、など
以上、心臓と血管を専門に診る診療科が循環器です。脳梗塞や脳出血等の脳血管障害、脳卒中は脳神経内科や脳神経外科が診ることも多いですが、どちらも血管の故障の予防という意味では一次予防、二次予防としてやるべきことは循環器と共通です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病等の生活習慣病も循環器病のリスク因子という点で循環器の守備範囲です。心筋梗塞や脳卒中にならないようにする、なってしまっても再発しないようにする、というのが循環器の仕事です。

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