2019/12/3(火)、心不全による二次性僧帽弁閉鎖不全症に対して経カテーテル僧帽弁修復術と保存的治療と費用対便益を検討した研究「Cost-Effectiveness of Transcatheter Mitral Valve Repair Versus Medical Therapy in Patients With Heart Failure and Secondary Mitral Regurgitation: the COAPT Trial」の結果をまとめました。

2019/12/3(火)、心不全による二次性僧帽弁閉鎖不全症に対して経カテーテル僧帽弁修復術と保存的治療と費用対便益を検討した研究「Cost-Effectiveness of Transcatheter Mitral Valve Repair Versus Medical Therapy in Patients With Heart Failure and Secondary Mitral Regurgitation: the COAPT Trial」の結果をまとめました。「MitraClip」は僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧帽弁接合不全修復システムで、日本でも治療が始まっています。「COAPT試験」は、2012年から2017年、アメリカとカナダの78施設にて、心機能低下による二次性僧房弁閉鎖不全症で、開胸手術が非適応とされた614例を対象に、経カテーテル僧帽弁修復術群302例、薬物療法群312例に分けて、MitraClipを用いた経カテーテル僧帽弁修復術の有用性と安全性を検討した試験で、今回は費用対便益について分析を行いました。医療費の費用対便益分析には、ICER(Incremental Cost Effectiveness Ratio)という指標がよく使われ、これは質調整生存率(Quality Adjusted Life Years: QALY)を1QALY向上させるための費用の差分の比の指標で、一般的に低ければ低いほど良いとされています。経カテーテル僧帽弁修復術には3万5755ドル(アメリカでは外科医の技術料は別)と入院費4万8198ドル掛かります。2年間の追跡では、入院回数、入院日数、入院後ケアなどを算出すると、経カテーテル僧帽弁修復術に掛かる医療費は、薬物療法群に比べて、1人あたり1万1690ドル有意(2万6654ドル vs 3万8345ドル、P=0.018)に少ないという結果となりましたが、経カテーテル僧帽弁修復術自体に費用が掛かる医療費も加味すると、2年間の合計費用は経カテーテル僧帽弁修復術群で有意(7万3416ドル vs 3万8345ドル、P<0.001)に高いという結果となりました。2年間の総死亡は、経カテーテル僧帽弁修復術群29.1%、薬物療法46.1%と、有意(HR 0.62、P<0.001)に少なく、QALY、ICERを計算すると、CQLY(1.13 年1.00年、差0.13、P<0.001)、1QALYあたりのICERは5万5600ドルでした。一般的に、ICERは1QALYあたり、5万ドル未満であれば高い経済的価値、15万ドル未満であれば最低限の経済的価値があるとみなされることが多く、結論としては経カテーテル僧帽弁修復術は費用対便益として価値があるという評価になったと論文ではまとめられています。詳しくは論文をご覧ください。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.119.043275
5万ドルとは日本円にして、550万円(1ドル=110円で換算した場合)、15万ドルは1650万円に相当します。これは、誤解を恐れずに表現すれば、人が一年間健康に生きるためには医療費が550万円から1650万円掛かることは社会的に正当化されるという意味であり、これと高いと感じるか安いとと感じるかは人それぞれでしょうが、このように医療費の費用対便益を考えていくことは、実にアメリカ的なプラグマティックな考え方とも言えます。日本におけるMitraClipについては以前詳しくまとめました。
「僧帽弁閉鎖不全症に対する「経皮的僧帽弁接合不全修復システム」についてまとめました。」→https://ochanomizunaika.com/11818
何かわからないことがあればお気軽に主治医までご相談ください。

PAGETOP