2020/9/1、雑感「初めての秋冬の新型コロナウイルス共存時代を目前にして」をまとめました。以前、第1波の終息、2020/5/25に緊急事態宣言が解除になったことを受けて、当時の雑感をまとめたところ、患者さんまたは医療関係者から様々な反響をいただきました。今回、第2波の真っ只中、かつこれから秋冬を迎えるにあたって、どのようなことを考えれば良いのか、個人的に考えてみました。基礎的な考え方は以前と大きく変わっていません。詳しくは下記ページをご覧ください。
「2020/5/25、雑感「新型コロナウイルス危機第一波を振り返って」をまとめました。」
https://ochanomizunaika.com/16751
1、病気はコロナだけじゃない
さて、前回との違いとしては新型コロナウイルスによる社会の変化が、非感染症の医療に対して無視出来ない影響を及ぼして来たことです。以前は、また日本国内の感染者数は少なく、主に感染症指定医療機関、感染症内科、呼吸器内科、救急、集中治療に携わる一部の医療従事者がパニックになっているだけで、他の診療科の診療にはそれほど大きな影響はなく、どこか「対岸の火事」的なところがありました。その後、国内外からいくつかの報告が入って来ました。アメリカでは心臓カテーテルの件数が前年度比で47%減少、救急受診は脳卒中51.9%減少、心筋梗塞40.3%減少、心不全49.1%減少、その一方でイタリアでは、院外心停止が58%増加していたとの論文が出ました。詳しくは下記論文をご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/18697
https://ochanomizunaika.com/18695
https://ochanomizunaika.com/18699
一体何が起こっているのでしょうか。脳卒中や心筋梗塞が新型コロナウイルスの影響で減ったということでしょうか。おそらく違うでしょう。なぜなら脳卒中や心筋梗塞の発生が半年で急に半分前後まで減少するとは考えにくいです。一方で、病院外で心停止はなぜ58%増加したのでしょうか。ここから考えられることは、恐ろしいことですが、脳卒中や心筋梗塞を起こしても病院に来ないで、病院外で亡くなっている例が一定の割合で存在するということが予想されます。脳卒中や心筋梗塞は適切な時間内に適切な治療を開始すれば助かる可能性があります。助かるはずの命が失われているのです。新型コロナウイルスが「対岸の火事」とはもはや言えない状況、非感染症の医療に対しても無視出来ない影響を及ぼして来ました。さらに、アメリカでは、乳癌、大腸癌、肺癌、膵癌、胃癌、食道癌の合計のがんの新規発見数が46.4%減少、オランダ、イギリスでも同様に40%から75%新規発見数が減少しているとの論文が出ています。がんの発生が半年で半数前後に減少したとは考えにくいです。がんの発生が減ったのではなく、がんの発見が減っているのです。心血管疾患と比べて死亡率に現れるまでには一定の時間差はありますが、今後、がんのステージが進行された状態で発見されることが増えるという報告が増えて来てしまうことがないか心配です。詳しくは下記論文をご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/18701
2、新型ウイルスは今後も発生するもの
さて、見方を変えると、ウイルスというものはそもそも一定頻度で遺伝子変異を起こすものです。今回の新型コロナウイルスも、実は合計7種類存在し、今回が6回目の遺伝子変異であることがわかっています。詳しくは忽那先生の記事をご覧ください。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200502-00176446
現在、新型コロナウイルスと呼ばれているウイルスは正式にはSARS-CoV-2と言う名前です。ニュース等で記憶にあるかも知れませんが、SARS、MERSを引き起こすSARS-CoV、MERS-CoVも同じコロナウイルスの仲間で、実はその前にヒトに感染するコロナウイルスとして4種類(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)、合計ヒトに感染するコロナウイルスとしては7種類があります。最初に発見されたのは1960年代以降ですが、いつから存在してたのかはわかりません。むしろウイルスという存在、遺伝子という存在を人類が発見する前、大昔から存在していた可能性が高いです。まだ探索的な研究ではありますが、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-HKU1に対するメモリーT細胞による細胞性免疫がSARS-CoV-2に対しても共通する可能性が報告されています。ある意味で人類はもうすでにウイルスと共存していたのです。詳しくは下記論文をご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/18831
そもそも、風邪、普通感冒(common cold)を引き起こすウイルスは200種類以上存在するようです。よく冬場、日本で熱が出るとインフルエンザか風邪か問題になりますが、実は風邪の場合も何からの原因ウイルスは存在する訳です。なぜいちいち検査をしないかと言うと、原因ウイルスを特定しても、治療法は変わらず、自然治癒を待つしかなく、実際ほとんど場合自然治癒するので、検査をする意味が乏しいからです。ウイルスは絶えず遺伝子変異を起こしており、今後も一定頻度で新型のウイルスは発生するでしょう。ウイルスとはそういうものなのです。今までも地球の歴史上、人類が生まれる前から現在まで、ウイルスは数え切れないほど遺伝子変異を繰り返して来たでしょう。ヒトコロナウイルス4種類も過去のどこかで遺伝子変異を起こしました。今回、PCR検査という技術の確立とその普及によって「検出可能」になったのです。今後は検出をする意義というのを考えていかなくてはなりません。新型コロナウイルスは重症化しやすいという報告もありますが、一般的に肺炎の死亡率は下記の図のようになっています。
https://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/002060663j.pdf
10代、20代、30代、40代、50代くらいまで肺炎で亡くなる確立はゼロではありませんが非常に低く、60代以降から増加傾向となり、70代、80代、90代、100歳以上は致死的になるという傾向です。これはウイルスの病原性による差ではなく、人間の年齢、老化による差です。人間も動物であり、不老不死はなれません。老化現象、自然の摂理に勝つことは出来ません。一定の老化現象で、どんな動物も感染症に負けやすくなるということだと考えています。さらに、新型コロナウイルスは心血管合併症を引き起こしやすいという報告もありますが、一方でインフルエンザウイルスもよく調べたら11.7%心血管合併症を引き起こしていたという報告もあり、新型コロナウイルス特異的なものではなく、感染症全般に起こることなのかも知れません。詳しくは論文をご覧ください。
https://ochanomizunaika.com/17547
https://ochanomizunaika.com/18843
過去の歴史上、数え切れないほど多くのウイルスが遺伝子変異を起こし、数え切れないほどの新型ウイルスと共存して来たのが人類の歴史そのものとも言えるのです。
3、これからどうすれば良いのか
さて、最後にこれからどうすれば良いのかをまとめます。ウイルスは遺伝子変異を起こすことが普通だと理解出来たとしても、現時点の社会情勢の中で、そんなことを言っても通用しない場合が多いでしょう。これから秋冬と季節が変わると、普通の風邪、インフルエンザも増えて来ます。熱が出ました、さてどうしたら良いでしょうか。これからの医療においては3つの役割分担が重要ではないかと考えます。
第1に、内科診療についてです。日本経済新聞の記事によると、日本全体で内科を標榜する医療機関は約70000施設あるようです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62997220U0A820C2EE8000内科を標榜するということは特別な理由がない限り、2019年まで、風邪、インフルエンザも含む一般的な発熱も診ていたということですから、この約70000施設の医療機関が今後も発熱の診療を担うのが良いでしょう。インフルエンザの検査だけやって陰性であれば保健所に相談に行ってくださいというのはあまりにも非効率ですし、だったら最初から新型コロナウイルスとインフルエンザの検査を同時にやったほうが効率的です。指定感染症の2種相当をどうするかの議論もあるのですが、政治マターなので割愛します。今後も長い目で見れば新型の感染症は数え切れないくらい発生する可能性があります。日本の医療機関のうち約70000施設ある内科を標榜する医療機関が今後も変わらず感染症の診療に当たるのが良いでしょう。
第2に、非感染症の専門医療についてです。新型感染症とは関係なく、専門医療の提供を維持することも大切です。当院のかかりつけ患者さんにおいて、予定されていた手術を延期して欲しいと言われた、予約を取り消しにされた、と困っている例が発生しています。救急外来が休止になったり、一般外来が制限されたり、分娩が中止になったり、非感染症の診療にも大きな支障が出ています。一部回復して来ている傾向ではありますが、新型感染症が発生するたびにこの騒ぎをやっていたのでは、非感染症の医療が持ちません。また、院内感染は感染性疾患と非感染性疾患を一緒の施設で診ている限り、どんなに注意をしても発生します。院内感染を物理的に防ぐには、施設を分けるしかないのです。感染症の医療と非感染症の医療を分け、新型感染症が今後繰り返されようとも、非感染症の医療に支障がない体制にする、これが今後の日本の医療がやるべきことです。そうしないと海外のように、脳卒中、心筋梗塞、がんの発見数が半分前後になり、院外心停止が増加する、そういう社会的な危機状態に陥ってしまいます。
第3に、健康増進・セルフメディケーションについてです。今回、新型感染症、緊急事態宣言、第1波、第2波と、ステイホームに徹底した方も多いのではないでしょうか。運動不足、花粉症、ビタミン剤、乾燥肌、湿布等、こういったものはほとんどセルフメディケーションでなんとかなるものです。これらの医療はもともと公的保険で保証すべきか疑問の声は上がっていました。しかし、処方箋でもらったほうが安い等の理由で特定の処方を希望する受診は後を絶ちませんでした。しかし、新型コロナウイルスの影響でなくなっても大きな害がないということが明らかになってしまったのです。前回、やや過激に予想したことが現実になりました。
https://ochanomizunaika.com/16751
医療機関の経営者同士で情報交換をしていてもある程度意見は一致しており、これらの受診はしばらく元に戻ることはないでしょう。考え浮いた医療費は新型感染症のため、非感染症の専門医療のために活用出来るため、一石二鳥です。浮いた人的リソースは新型感染症、非感染症の専門医療、高齢者医療、保健所、公衆衛生、他、足りないで困っている医療を助けるために向かいましょう。医療機関経営者は、今も変わらず来院している患者さんはなぜ変わらず来ているのか、新型感染症が今後何度繰り返されても変わらない必要な医療とは何なのか、自問自答しましょう。
個人の生活の中で出来ることは、暴飲暴食を避けて、運動負荷を解消する、お酒を飲み過ぎない、煙草を吸わない、これだけで多くの生活習慣病が改善出来ます。テレワークで自宅にいる時間が増えました。自宅内に簡易ジムを作るのも良いでしょう。家族と過ごす時間が増えました。今まで暴飲暴食に当てていた時間を運動に回しましょう。セルフメディケーションの主治医は自分自身です。実行するのも自分、継続するのも自分です。かかりつけ医を持ちましょう。具体的には今後も繰り返すかも知れない新型感染症、内科のかかりつけ医を持ちましょう。何か持病がある方は非感染症の専門医療を提供するかかりつけ医、かかりつけ医を2人持ちましょう。自分自身の健康増進、セルフメディケーションを強化しましょう。自分で何に気を付けて良いかわからない場合には身近に相談出来るかかりつけ薬剤師を持ちましょう。かかりつけ医、かかりつけ薬剤師だけではなく、身近に気軽に相談出来る医療従事者を持ちましょう。以上、「初めての秋冬の新型コロナウイルス共存時代を目前にして」雑感をまとめてみました。最後に、新型感染症、非感染症専門医療、セルフメディケーションと3つの役割からこれからどうすれば良いのかを具体的に記載しました。少しでも何かの参考になれば幸いです。私自身、思考を整理する良い機会になりました。また不定期で思い付いたら雑感をまとめます。